月のかげする水

□月のかげする水 第12壊
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そのユウちゃんの言葉にふと私は考える。
我慢って、何だ?
我慢する程私とセックスしたいのか?
そういやコムイが言ってたな、「神田くんの気持ち」って。…私、それ、聞いたっけ?

湧き上がる疑問に私はむくりと起き上がり、そのつやつやの長い髪を引っ張る。近くなる顔の距離。眉間に寄る皺。

「ねぇユウちゃん」

「髪引っ張んな…何だよ」

不機嫌そうなその顔をまたじーっと見つめる。

「…ユウちゃん、私の事」

好きなの?

そう聞いた時のユウちゃんの表情ときたら、…くっ、写真に収めておきたかったぜちくしょー。



「ちーっス、かな。邪魔するさ〜」

「あら神田。任務から戻ってきてたの?」

「…何か気持ち悪い顔してますね」

ラビっち、リナちゃん、アレンがノックもせずに病室に入ってきた。

「……」

ユウちゃんは突然乱入してきた3人を見て、小さく舌打ちして席を立つ。

「あら、神田行くの?」

「…騒がしいのが来たからな」

「それオレの事さ?」

「まさか僕の事じゃないですよね?」

「……」

「あっ、ユウちゃん!」

ぐぐっとその眉間にまた皺を寄せるが、結局何も言わず背中を向けるユウちゃんを、団服の裾を掴んで私は呼び止める。

「…また来て、ね?」

振り返ったその顔を見上げてにっこりと笑むと、ピクッと眉が上がり、一瞬何故か言葉に詰まったような微妙な顔をしてから、その団服を掴む私の手をやんわり外した。そして顔を寄せて私の耳元でぽつりと呟いた後、今度こそ病室を出て行く。

「…何か、本当に邪魔したっぽいさ?」

その背中を見送りながら、少し申し訳なさそうに、だけどニヤっと笑ってラビっちが言う。

「う〜ん、微妙?」

首を傾げて言うと、「何よ微妙って」とリナちゃんが笑った。
そうして3人はまじまじと点滴に繋がれる私を見て、一斉に溜息をつく。何だキミ達、その失礼そうな溜息は。

「何だか、変な感じですね」

「そうね、大人しくしているかななんて、初めて見たかも」

「ぶっちゃけ気味悪い?」

「…キミ達、やっぱり失礼な事考えてたな?」

むむぅとユウちゃんみたいに眉間に皺を寄せる。

「この薄幸の美少女かなちゃんに失礼だぞ?」

「「発酵?」」

「むきー!漢字が違う!」

「かな!ダメよ!」

声を揃えるラビっちとアレンに思わず殴りかかろうとするが、点滴が邪魔をしてそれは不発。しかもリナちゃんに怒られた。そして口を尖らす私に苦笑する。

「大分元気になったみたいね」

「まあね」

本当はもういつもの体調に戻っているのだが、何故かコムイがそれを許さなかったのだ。

「ああ〜暇なんだよな、ちきしょー」

ばふんと寝転んで枕を叩くと、差し出される本。

「ほい、お見舞い」

「おお!これは!」

ラビっちから渡された本。『沈黙の晩餐』、『世界の爬虫類』そして『ジェシーの甘い誘惑』。

「『ジェシー』シリーズの続編だな?ラビっちよ!」

その素晴らしいラビチョイスに感嘆の声を上げると、「おう!」と親指を立ててきた。もちろん私もイェースと親指を立ててびしっと重ね合わせる。

「…何です?その『ジェシー』って」

面白いんですか?

リナちゃんと顔を見合わせ、アレンは不思議そうにその本を覗き込む。

「もちろんさ!ね、ラビっち」

「おお、アレンにも貸してやるさ!」

後で部屋に持って行ってやるさ〜と、ラビっちが嬉しそう(いや楽しそう)にアレンの肩を叩く。リナちゃんはと言うと、それこそ微妙な顔をしてそんな私達を見ていたのだった。

やっぱり入院アイテムに本は必須だね!






私が入院したときの事。
次の日アレンが「何ですこの本は!」と怒鳴り込んできた。え?全部読んだの?このむっつりさんめ!
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