月のかげする水

□月のかげする水 第18壊
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「…この前の任務は神田とだったんですか?」

困ったように訊かれて「何で?」と返すと、アレンは自分の首を「ここ」と指差す。

「キスマークついてますよ?」

「へ?あ…」

その困り顔に私はかかかっと熱が上がり、わたわたと誤魔化すように受け取った水を飲む。
そんな私の様子を見ながら、はあと聞こえる溜息。

「任務前だってのにあの男は…」

本当にバ神田ですね。

「あは、あはは」

もう笑うしかなかった。

「笑い事じゃないでしょう。かな、身体は大丈夫なんですか?」

心配そうな目に逆に照れてしまう。

「うん、まあ今の所コムイから貰って飲んでる水で、何とか」

空気中の水分集められるようになったし。

えへ、と照れ笑いを浮かべると、「ならいいんですけど」と言いながらアレンは歩き出した。

「んで、今回の任務は?」

ひょこひょこと後を付いて行きながらその白髪頭に問いかけると、「資料読んでないんですか?」と今度は呆れたような溜息をつく。てへっと笑うと「全く」と言いながら教えてくれた。

「町の教会にAKUMAが現れたそうです。イノセンスは確認されてはいませんが、ある可能性は高いので、回収と、AKUMAの救済ですよ、簡単に言うと」

「…本当に簡単な説明だな」

「かなに合わせてあげたんです」

「むっ、ひどくね、アレン」

「バ神田と付き合ってる位ですからね」

「むむっ、ますますひどくね?」

軽口を叩きながら歩いていると、宿に着いてしまった。

「とりあえず、今回の宿は僕と同室ですので、襲わないで下さいね」

「ええい!誰が貴様なぞ襲うか!」

むきーと怒ると、はいはいといなされてベッドにどさりと荷物を置く。

「あっ、私探検してくる!」

水のボトルを抱えて言うと、一瞬アレンはちょっとまた困ったような顔をしたが、「破壊活動は無しですよ?」と言いながら、許可してくれた。失礼なヤツだなと思ったが、優しい私は暇つぶしに『ジェシーの甘い誘惑』を貸してあげた。それから部屋を出ようとすると、後ろでアレンがその本を見て何事か喚いている。が、とりあえずそれは無視して町の探検へと繰り出す。

ううんと、水場は、と。
あんまり大きくない町だなぁ。

小さなお家が点在しているのと、その中心には不自然な程大きな教会。

これがアレンが言ってた教会かぁ。

せっかくだと思い、ギキィと重く古びた扉を開き、中を進んでいく。だが中は普通の教会で、取り立てて目新しい物も、怪しい物もない。つまりは何の変哲もない。

「…イノセンスなんて有んのか?」

んん〜?と首を傾げると、後ろで「さあね」と男の声。

「誰?」

思わず反射的に振り返れば、そこには黒い燕尾服、漆黒の肌。そして額には…

「…あんた、ノア?」

緊張が走る。だがそいつは気のない様子でにっこり笑った。

「そう言うお嬢ちゃんはエクソシスト?なーんて、それ着てっし、見りゃわかるか」

ちっちゃいのに大変だねぇ。

団服を指差してうんうんと頷いているその軽い調子に、ムカッときた。

「うっさいな!悪かったな、ちっちゃくて!」

これでも16才だ!と怒鳴ればあからさまに驚かれた。何て失礼な!

「マジで16才?うわ〜随分と発育が…」

上から下までじろじろと眺めて、視線がある一点で止まる。

「うわお、こりゃ悪かった。お嬢ちゃんじゃないね、立派なお嬢さんだ」

「っ!」

いつの間に距離を詰めたのか、白い手袋を嵌めた指が、つ、と私の首筋を辿る。

「もう男がいるんだ?相手は誰かな?」

楽しそうに目を細めると一緒に動く、左目下の泣き黒子。

「あんたには関係ない」

さっと体を引いて痕を手のひらで隠す。

…何だコイツ。

何を考えているか全く読めないこの飄々としたノアの男に、どうしたらいいかわからず、判断が遅れた。

「あっ」

掌が私の体に入り直に心臓を掴まれる。

「俺はティキ・ミック。俺とも遊ぼうよ、お嬢さん?」

その顔が、ニヤリと歪んだのを視界に入ったのを最後に、私は意識を失った。

…変な男に捕まっちゃったみたいだなぁ、私。






私と敵対するもの。
うわ〜、ちょっとこれ、ヤバい?
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