world is yours
□world is yours 9
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適合者だと知っててついて来た訳じゃない。
ただ私の世界が、いらないと、壊れてしまえばいいと願った、私の世界を、違うものに変えてしまいたかっただけだ。
…けれど、私が『クロ』と一緒に行きたいと思ったのも事実だ。
「アヤちゃん」
コムイさんが私を促す。
目の前には人?銅像か何か?いや違う、
「ヘブラスカだよ」
紹介するように掌で指し示されたそれは、生きているようだ。
…う、何か怖い。
その液体のような奇妙な身体に、思わず私が後退ると、その『ヘブラスカ』からは腕のようなものが伸びてきて、私の身体が持ち上げられる。
「きゃ、コ、コムイさん!」
助けを求めるようにコムイさんを呼ぶが「大丈夫、少し調べるだけだから」、と言われた。…なら早く教えて下さいっての。と、英語でどう言ったらいいかわからない。
『や、だ…何…?』
思わず日本語が出る。
身体の中に何かが入ってくる、気持ち悪いその感覚。
…やだ、これ、何か、思い出す、…クロ…助けて……神田さん…
息が苦しい。
そう思った時、ふいに響く『声』。
『怯えるな、痛くはない』
それがヘブラスカの声だと認識するのに時間がかかった。
直接響いてきたその言葉は、英語でも、日本語でもない。
…これは、嫌です。
私も心の中で呟くと、また聞こえる声。
もう終わる、お前の体験した事とこれは違う、大丈夫だ、
…私の体験した事…そんな事、何でわかるの?
…お前は闘える、だから闘う事ができるはず、
私の身体は猫じゃなく、元の人間に戻っているのに気付く。
だがストンと下ろされた時にはまた、猫になっていた。
「アヤちゃん」
ぐらりと倒れた猫の私をコムイさんが抱き上げる。私は抵抗する気力がなかった。
『…異なる世界より来る少女、虚構と現実、逃避と立ち向かい、救いを見いだせば現象を現実に、癒やしを見いだせば世界を…愛せる、力と、なる』
「ヘブラスカ、それは予言だね。ならやはりアヤちゃんは…エクソシスト」
コムイさんの言葉を理解しようと聞くのが精一杯で、私は黙って大人しくその腕の中にいる。
「…その少女のイノセンスは『現象』。思う事を現実に変化させる力。」
「…だから猫に?」
「世界を、厭い、そして自身を厭う。…私がその少女の中を見た時、嫌な思いをさせた。」
「ヘブラスカ?」
「嫌な事を思い出させた、だがアヤ、お前は闘えるのを忘れるな」
「え、ちょっと何を言ってるの?ヘブ君」
意味が分からず戸惑うようなコムイさんの声がする。
そして気付けば私の上には石のようなもの。
「…35…40…45…58%、それが今のシンクロ率だ」
そう言った後、『ヘブラスカ』は瞳を閉じた。
上からコムイさんの溜め息。
「58%、まあまあだね。
…大丈夫?アヤちゃん」
ぐったりとして動かない私に心配そうに聞いてくる。
「でも、さっきキミの本当の姿がボクにも見えたよ。人間の、キミが」
戻ろうか、神田くんの所へ。
ゆっくりと、私を揺らさないような足取りで歩き出す。
「…きっと神田くん、心配してるから」
そう言ってコムイさんは苦笑を漏らした。
あまりハッキリしない意識。
だが室長室に近付くにつれて、『クロ』の声が聞こえてきて、私はほっと安堵していた。
でも誰かと言い争うような強い声で、『クロ』以外の声は良く聞き取れない。
「神田くん以外にも誰かいるね。この声は…」
コムイさんが扉を開ける。
途端に大きくなる、声。
後ろ姿。
『クロ』の前に一緒に座る女の子は、とてもかわいい。その子と目が合う。
「……任、そうだ責任だ!
俺の意志で連れてきてしまったその責任で、気になっているんだ!」
責任?
連れてきた、責任?
それは、私の事?
女の子が『クロ』に目配せしている。
振り返り驚いた瞳と合わさった時、私は安堵するよりも先に、とても胸が締め付けられるような痛みを、感じた。