world is yours
□world is yours 10
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…そりゃそうだよね。
中庭の一際大きな木の傍。私は溜め息をつく。
神田さんは私をこっちに連れてきた責任があるもんね。わかってた、わかっていたけれど。
何だろう、寂しくて仕方がない。わかっていた筈なのにそれをはっきりと言われた事が。
『クロ』はただ、私が可哀想だと思ったんだ。あんな目に二度も遭っている私をきっと置いていけなかっただけ。
そして『エクソシスト』だった私をまた神田さんは更に責任を感じてしまっているだろう。そう考えるだけでも心苦しい。
でも、一緒にいたいな。
神田さんの責任を盾にして、一緒にいる今の状況。それでもそう思っている私、卑怯だ。
…何だろう、この気持ち。
卑怯だってわかってる、なのに傍にいて欲しい。
猫であれば邪魔にならない?
そう考える。実際私は猫になりたいと願っていた。
猫は自由だ。気儘に生きていけるからとそう思っていた。だけど今の私のこの状態、この感情は決してそうではないと気付く。
それに猫だと…
さっき室長室で会ったコムイさんの妹、リナリーさん。
すっごくかわいかった。
そしてそんなかわいい女の子が、神田さんと顔を寄せ合うように一緒にいた。
神田さんには神田さんの世界がある。
私と知り合う前の世界。
そう思うとひどく胸が苦しい。
…恋人、とか、かな。
なら私、あんまり一緒にいたら、
「…邪魔、だよね。」
「何がです?」
ぽつりと漏れた言葉に思いがけず返事が返る。
ガサリと草を避けて現れたのはアレンさん。
「とりあえず僕はそうは思っていませんけど、」
隣り、いいですか?
丁寧に断りを入れ、思わず頷いた私を確認してから腰を下ろす。
「今のは神田の事ですか?」
ゆっくりと話しかけながら、私の顔を覗き込んできたので、少し体を引く。
そんな私を苦笑しながらまたアレンさんは距離を戻した。
「神田は平気なのに、僕にはまだ警戒してるんですね」
「そんな事、ないです」
慌てて首を振る。
実際アレンさんは本当に普通に私に接してくる。猫の姿であるにも拘わらず、だ。
「あの、アレンさん」
「アレンでいいですよ、アヤ」
私を呼ぶその優しい笑顔に、さっき思った事を聞いてみようと考える。何だかこの人は聞きやすそうだ。
「えっと、アレン。
…リナリーさんは神田さんの恋人、なんですか?」
「は?」
笑顔が固まる。その様子にマズい事聞いたかな、と緊張したが、すぐにまた笑顔になった。しかしその顔は何だか少し、裏があるような、そんな顔。
「…どうしてそう思うんですか?」
質問が質問で返ってきた。
「えっと、仲良さそうだったから…」
胸が苦しくなるようなさっきの光景。正直、お似合いだとも思った。
また俯いて小さな声で答えると、アレンから聞こえる溜め息。
「あの2人は、いや、もしそうだとしたらどうします?」
「っ」
弾かれたようにその言葉に顔を向けると、難しそうな表情で私を見下ろしている。
「神田とリナリーが恋人同士なら、アヤはどうします?いえ、どう思います?」
再び問われる。
どう思うか。
2人が恋人同士なら、私は、私は…神田さんにはいらない?一緒にいてはいけない?
頭の中が真っ白だ。
息も苦しくて、今にも震えだしそう。
黙り込む私にアレンはにっこりと微笑む。今度は労るように。
「もしかして、アヤは神田の事が好きなんですか?」
好き?私が、神田さんを?
そんな、まだ出会って1ヶ月も経ってないのに。
真っ白だった頭ではすぐには思考できず、私は戸惑った。
「だってそんな事聞くなんて、神田が気になっているからなんでしょう?」
「っ違、」
「苦しそうな顔、してますよ?」
…どうして、わかるの?
今度は驚く。
猫の表情がわかるのか、と見上げると苦笑された。
「僕には見えるんです、アヤの表情が。…ちょっと失礼」
「きゃっ」
一瞬視線を彷徨せたアレンが、急に私を抱き上げる。
「…そういう事は直接神田に聞いて下さい」
「え、待って」
またガサリと草を避けて歩き出す。今度は私を抱えて。
すると動けずにいる私の視界に不意に神田さんの姿が飛び込んでくる。
直接ってそんな、そう思ったその時、その後ろにいるリナリーさんに気が付いて、また頭が真っ白に、なった。