恋愛ヴァージン

□特等席
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私は小学校を卒業して以来、迷子になったことなどない。迷ったと認識してなかっただけかもしれないが…。

でも今、これだけは言える。




……迷子だ。




「ここどこなのよ…」



さっきから同じ道をぐるぐるまわっている気がする。
あぁ、ここはさっきも来た。あのおじさん、見覚えがあるもの。



「成瀬さん…」



私が迷子になったのは10分ほど前のこと。

私と成瀬さんはお祭りに来ていたのだ。



「人が多いし、もしはぐれたらこの柱の前で落ち合おう」



そう成瀬さんは言ってくれたのだがまさか本当にはぐれるなんて…。

りんごあめを買いに行って、振り向いたら成瀬さんがいなくなっていたのだ。



「柱ってどこ?」



はぐれた私だったが、すぐに成瀬さんの言葉を思い出したが肝心の柱の場所を忘れてしまったのだ。

自分はこんなにも方向音痴だったのかと思ってため息をはいた。


ついには人気のない古ぼけた神社の前にまで来てしまった。



「疲れた…」



浴衣で草履を履いていたせいで足がものすごく痛い。近くにベンチがあったのでとりあえず座った。


今は7時15分。
30分から花火が始まる。



「成瀬さんと見たかったなぁ」



ここの花火は綺麗と評判だったので、成瀬さんと2人で見たかったのに。



「……見れるから」



急に後ろから声がした。聞き覚えのある声。



「成瀬さん!」



振り向くとそこには狐のお面を被った成瀬さんがいた。



「狐?」


「あぁ。ファンの子にバレて途中で買った」



少し照れくさそうに成瀬さんはお面を外す。



「なんで私がここにいるって…」


「皆川はすぐに探せたんだけど、追いつかなくて」



成瀬さんは私の見える位置にいたらしい。
なんでもっと周りを見なかったんだ、私。



「すいません…」


「僕も悪い…。でも会えてよかった」



私の隣に腰を下ろした成瀬さんは私の手を握った。



「もう離さないから」



そう言った直後に花火は上がり、成瀬さんは私にキスをした。

















この場所は私だけの特等席


(その場所から見えた花火は今までとは比べ物にならないくらい綺麗だった)

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