恋愛ヴァージン

□後ろでは
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『ラブ部部員に告ぐ!!昼休みにかばんを持って至急部室に来ること!!』



そんな放送がはいったのは4時間目が始まる数分前。声の主はもちろん響先輩。

ゆっくりとしたい昼休みまでもが潰されてしまい、私はがっくりと肩を落とすのだった。






「失礼しまーす」



遅れるとうるさいので、私は4時間目が終わってすぐに部室に来た。
もちろんかばんを持って。

教室をでるとき何人かに「珠子帰るの?」と聞かれてしまった。



「珠子!早いな!さすが俺が副部長に選んだだけある!」


「はいはい」



部室には響先輩と高遠が来ていた。



「ほんと部長も急に集まれとか言うのやめてよね〜。彼女たちに昼食べれないって言うの大変だったんだから」


「それは高遠だから大変だったんでしょ…」



いまだにこいつはあの大勢の彼女たちと食べていたのか。

呆れたような視線をぶつければ高遠に笑われた。



「ははは。そんな目しないでよ。傷ついちゃうよ?」


「あんたなんか傷ついて立ち直れなくなればいいのよ」


「毒舌だね〜」



相手にするのも疲れて私はソファに座った。



「それで響先輩。私たちなんで集められたんですか」


「そうだよ部長。理由言ってくれなきゃ」


「まだ言わん。龍之介たちが来てからだ」



そんなに大事なことなのかと私と高遠は顔を見合わせた。



「遅れたにゃ〜」


「…遅れた」



数分して龍之介くんと成瀬さんが来た。



「遅い!」


「教室移動だった」


「おれも〜」



成瀬さんのことだから、きっと教室移動じゃなくても早く来なかっただろう。



「はいはい部長。みんな揃ったよ。なんで集めたか言って?」



高遠がみんなを代表して聞く。



「それはな…」



響先輩がこほんと咳払いをして、




「みんなで昼ごはんを食べようと思ったんだ!!」




訳のわからないことを言い出した。




「はぁ?それだけでオレたち集められたの?」


「先輩…。1人で食べたくないなら友達を作ってください」


「うにゃ〜。せっかく急いで来たのに」


「帰る」



みんな口々に不満を言う。
でもそんなこと響先輩は聞いていないようだ。



「いいじゃないか!部内での親睦を深めるためにこれから週1でここで弁当を食べるんだ!」



どうしてそう訳のわからないことを考え付くんだ…。
あぁ成瀬さんが帰ろうとしている…。



「漣!どこに行く気だ!」


「帰る。ピアノの練習をしなくちゃいけない」



ごもっともだ。成瀬さんからピアノの練習時間なんて奪っちゃいけない。



「オレもレポート書かなきゃいけないし〜」


「おれも作品途中だったにゃ〜」


「じゃあ私も戻りますね」


「ちょっと待ておまえら!」



みんなやることを思い出して帰ろうとする。
それでも諦めない響先輩がすごいと思った。



「珠子!」


「なんですか?」


「おまえ弁当は自分で作ったか?」


「?そうですが」



それが今この状況とどう関係しているのだろうか。
だが高遠と龍之介くん、そして成瀬さんは部室から出ようとする動きを止めた。



「ふっふっふ。だそうだ」


得意気に笑う響先輩。
あ、嫌な予感。



「珠子さんのお弁当卵焼き入ってる?」


「ん?たしか入れたと思うけど」



さっきまでドア付近にいた龍之介が私の目の前に来て言う。



「あとなに入ってる?」


「あとは昨日残った…って高遠!勝手に人のかばんあさらない!!」



そして高遠は私のかばんを勝手にあさり…。



「皆川が毎日作ってるのか」


「あ、まぁ大体は。こら高遠!お弁当返して!」



成瀬さんまでもがこっちに来ていた。


響先輩のたった一言でみんなの考えが変わってしまった。
まずい。私のお弁当がなくなる。



「おぉ〜。きれいなお弁当だにゃ〜」


「珠子ちゃんの手作りだもんね〜」


「ちょうど腹も減ってたしな」



私の声など誰も聞いていない。高遠たちは容赦なく私のお弁当を開けるのだった。

















後ろでは響先輩の勝ち誇った笑みが…


(私のお弁当が…)

(来週もやるからな!絶対に来い!)

(あ!けーくん卵焼き食べないで!!)

(ちょっ!成瀬サンが唐揚げ全部食べた!!)

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