恋愛ヴァージン

□遠くで
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「珠子ちゃーん!」



あぁ目があってしまった。
昼休みの中庭。群がる女子の真ん中に高遠がいるとわかって、私は早歩きでその場を離れようとしたのだ。

それなのにこの男。大声で人の名前を読んできた。
あぁ、前にもこんなことあったなぁ…。



「ちょっ!待ってよ珠子ちゃん!走んないで!」


「やめて。ついてこないで」


「相変わらず冷たいね〜。あ、りんごジュースあるよ」


「……」



止まってしまった。



「ホントにりんごジュース好きなんだね」


「おいしいもん」



高遠の彼女たちと少し離れたベンチで私と高遠は腰を下ろしていた。



「でもどうして飲みもしないりんごジュース買ったの?」


「んー。珠子ちゃんに会えそうな気がしたから」


「なにそれ…」



それでもりんごジュースが飲めたことには感謝する。



「それじゃあごちそうさま」



飲み終わったパックを潰して私は立ち上がった。



「もう行っちゃうの?」


「うん。あんただって彼女たち待たせてるでしょ」


「あの子たちよりオレは珠子ちゃんと一緒にいたいんだけど」


「なんで…」


「珠子ちゃんはオレのお気に入りだもん」



これもまたどこかで聞いたな。それでも嫌な気がしないのは何故だろう。



「ほら座る座る」



私を座らせるために高遠は私の手を引っ張った。

「仕方ないなぁ」なんて言って私は高遠の手を握り返した。

















遠くで彼女たちが騒ぐ声がする


(明日もりんごジュース買ってあげるから)

(もういいよ…。あんたの彼女たちになに言われるか…)

(すごいねー。みんな奇声あげてるよ)

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