あの海の彼方に

□カジキ漁
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タリーはもう網の繕いなんてうんざりだった。
家の土間に広げた網を、父親と丹念にチェックしては穴の開いているところを太い蝋引きの糸で繕う。
今ごろザックスは何をしてるんだろう??クラウドと二人っきりで。気になりだすと色んな妄想が頭にわいてくる。
まさか・・・変なことしてるんじゃないでしょうね??
男性経験のないタリーには、ザックスが何をしているのか想像しようとしても、どうもうまくいかない。肝心の部分がぼやけてるモザイク映像みたいなもんだ。
イライラしてる様子のタリーをチラっと見てから、ニコラスは軽く咳払いをして話かけた。

「あ〜〜、タリー・・・お前はザックスをどう思う?」
いきなり心の中を見透かされたような気がして、タリーはびくりとした。

「え?、ザックス ?いい人だと思うけど」
ニコラスは脇に置いた煙草の箱を手に取ると、一本取り出し、カチリとライターで火をつけた。

「ちょっと、あんた!網の近くで煙草吸っちゃダメでしょうが!」
明日の朝のパンをこねていたタリーの母がキッチンから声をかけた。ニコラスは軽く肩をすくめると土間の床で煙草を揉み消した。

「母さんは千里眼だな」
タリーはくすりと笑った。
タリーの機嫌が少々戻った隙に、ニコラスはタリーの方ににじりよると、小声でさっきの話を蒸し返した。

「アイツは実にいい男だ」
タリーの頬に血が上ってきた。

「なにせ力は強いし、勘もいい。仕込めば最高の漁師になれるだろう」
タリーは黙ってうなずいた。今日夕日の中で見た、ザックスの逞しい体つきを思い出して、なんだか胸が苦しくなってきた。

「今、村にゃお前に釣り合う若い衆がいねえ。あいつがうちに婿養子に入ってくれれば俺も心残りなく引退できるってもんだ」
若い男が次々村を離れ、そのほとんどがそれっきり帰ってこない。
こんな小さな村で肉体労働するなんて、若いものにとっては割があわないと感じられるのだろう。

「でも、あの人、脱走兵かもしれないんでしょ?」
ニコラスはうなずいた。

「俺の目だって節穴じゃねえ。あの二人は神羅の脱走兵だ。たぶん、ツレの金髪は、戦場のショックで頭がオカシクなってるんだろう。ザックスはたいしたヤツだ、見捨てずにちゃんと連れてきてやがる」
違うの、あの二人はもしかしたら・・・タリーは喉元まででかけた言葉をごくりと飲み込んだ。

「ちょっとあんた!聞き捨てならないことを言ってるわね!」
いつのまにか近くに来ていたタリーの母のグリンダが腰に手をあてて二人を見下ろしていた。

「タリーの婿にどこの馬の骨がわからない男を、なんて思ってるの?」
ニコラスは善良そうに眉を釣り上げると片手をひらひらさせてグリンダの言葉をさえぎった。
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