あの海の彼方に

□クラウド
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タリーは張り切っていた。

もちろんザックスに少しでもいいところを見せたいという気持ちからだが、クラウドがよくなれば、ザックスもこの村に腰を落ち着けてくれるかもしれない、そんな気持ちも手伝った。

まずは小屋の中を掃除して綺麗にしてあげよう。タリーは戸口のところでぼんやり海を見たまま座り込んでるクラウドに声をかけた。

「クラウド、私が掃除するまで大人しくそこにいてね」
わかっているのかいないのか、クラウドはただ黙って朝方の海を例の焦点の合わない目でじっと見ていた。
タリーは腕組みをすると、二人の暮らしてる小屋の中をじっくり見回した。
室内はこざっぱり片付いており、粗末な藁布団の上には毛布が二枚、きっちり角を合わせて綺麗に畳まれている。小さな石造りの流しは洗いきよめてあり、脇の台には金属のトレイの上、皿とアルミのマグカップがこれまたきれいに洗われて伏せてある。
洗濯でも、と思ったが、寝台脇の葦を編んだ籠には、洗ったばかりのタオルとTシャツがきちんと丁寧に畳まれて入っている。
壁にはここに来た時に二人が着ていた軍服なのか、ごつい仕様のニットシャツとカーゴパンツ(って言うんだろうか?ポケットが沢山ついてる厚手のズボン)がザックス手作りのハンガーにかかってぶらさがっている。

(ザックスってば完璧じゃない・・・)
タリーが家事をする余地などまったくないくらい小屋の中は片付いていた。

(そうだ、せめてお花でも飾ってあげよう!)
タリーは十五歳の少女らしく、そんなことを思いついた。
クラウドを見るとまださっきのところから動きもせず彫像のように固まっている。

(本当に雪花石膏の像みたい)
夜の明かりの下でも朝の光りの中でも変わらない完璧な美貌は、見るまいと思ってもつい目を吸い寄せられてしまう。
タリーは意識して目を背けると、クラウドの脇を通り抜け、二人の小屋の裏手にある差し掛け小屋に向かった。
確かあのガラクタの中にガラスの壜があったはずだ。あれにハマナスの花やニオイアラセイトウを差して部屋に飾ってあげよう。
タリーはなんだか浮き浮きしてきた。ザックスは喜んでくれるに違いない。
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