あの海の彼方に
□ネレウスの日
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明日はネレウスの日。
この浜では月に二回、新月と満月の日には漁を休む。ネレウスの日は丸一日海のものを一切獲ってはいけないという古くからの言い伝えが今も生きている。
浜の漁師たちはその日船で隣の浜にある港町まで行き、市場で新鮮な野菜を買ったり、ガソリンを仕入れたりと結構忙しい。帰りにはこじんまりした場末の歓楽街で、ちょっとしたお楽しみにふけったりもする。
今日は大漁だったし、明日はネレウスの日だというのに、ニコラスの表情はなんとなく冴えなかった。
タリーは明日は甲板長のグレゴールに連れられて、隣の浜の市場に用足しに行くことになっていた。本当はザックスと一緒に出かけたくて声をかけてみたのだが、ザックスは、いつも皆にクラウドの面倒を見てもらってるからたまにはオレが一日付いててやらないと、と言ってさっさと自分の小屋に引き上げてしまった。
「ねえ、父さん、明日は私、グレゴール小父さんと出かけないといけないのかな?」
まだ未練たらしくザックスとでかけることを諦めてなかったタリーは、手酌でウイスキーを飲んでいるニコラスに話しかけた。
「クラウドはバネッサが面倒見たがってるから、一日くらいなら預けられるかも」
バネッサがクラウドをどんな目でみているかについては黙っていた。
「ダメだ。明日はガソリンも買わないといけないからヨソモンのザックスじゃどうしようもない」
ニコラスはブスっとしてタリーの顔も見ずにそう答えた。
ヨソモンのザックス・・・父さん、どうしたんだろう??今までそんな言い方したことなかったのに・・・
「確かにグリンダの言うことは正しい。ザックスもクラウドが落ち着いたらこの浜を立ち去るのがいいんだろう」
一体父さん、どうしちゃったの??昨日まではあんなにザックス、ザックスって言ってたのに。
「父さん・・・」
タリーはなんだかさっぱりわからなかった。得体の知れない障害のあるクラウドに比べて、ザックスは体格もよくて朗らかで、いかにも漁師向きだ。私の婿さんにって話まででていたのに。
「タリー、あの二人はいつかここを去る。お前に昨日話したことは忘れてくれ。」
「どうしたの??だって父さん、ザックスに命まで助けてもらったんでしょう??!!恥ずかしくなったの、男として?」
タリーはついカッとなって父親をなじってしまった。
パン!とニコラスの平手が飛んだ。
「親のいうことをちゃんと聞け!ともかく明日はグレゴールと一緒に市場に行って来い!ザックスのことは忘れろ!!」
「父さん、ひどい!」
タリーは椅子を蹴立てて立ち上がると、ドアを開けて表に飛び出していった。