【I've been waiting for so long】


「クラウドの誕生日には間に合いそうだな。」
ザックスがそう言ったのは一ヶ月前だった。

どーってことないミッションだしさくさくと済ませてくるゼ、なんて威勢のいいことを言ってたのに、帰還予定から三日過ぎても何の音沙汰もない。

クラウドはだんだん不安になってきた。
どうしよう、どうしようなんて散々迷った末ソルジャー管理科までのこのこ出向いて、ミッションがどうなってるのか聞きに行った。
そして、つっけんどんな事務員から
「ソルジャーのミッションは機密事項ですから教えられません。」なんてぴしゃっと言われた時は顔から火が出そうになった。
一般兵といえど神羅に属す軍人、そんなことも知らないのかコイツは、と事務員の顔に書いてあったような気がした。
さらには
「なんでザックス・フェアのことだけ知りたいんですか?」と畳み掛けるように言われたもんだから、いや、結構です、なんて言いながら逃げるようにソルジャー管理理科から飛び出した。

別に・・・そんなにザックスのことが気になってるわけじゃない、ただ友人として安否を確認したいだけだ。
そう自分に言い訳したりした。 
ましてや誕生日のことをザックスが覚えてくれればいいなあ、なんて自分が心のどこかでひっそり思ってたなんてとんでもない。
そんなだいそれたこと。

そもそも自分ごときの誕生日なんてこの大都会ミッドガルで気にしてる人なんぞいるわけない。
ザックスだってきっといつもの親切なノリで言っただけなんだろう。

今までの人生で、母親以外から誕生日を覚えてもらったことがないもんだから、ちょっと期待しすぎた。

そう、別に自分の誕生日なんてどうでもいいことだ。
去年も一昨年も誰も覚えてくれてなかったのだ。今年ザックスが忘れてたっていつもと同じ8月11日が来るだけだ。
淡々と過ごせばいい。
そんなくだらないことより、ザックスの安否の方がよっぽど大事だ。

真夏のミッドガルは頭がくらくらするくらい暑くて、うつむいて歩く後頭部を情け容赦ない日射しが直撃する。
そういえば勤務で炎天下のミッドガルの警備中、熱中症で倒れたことがあった、その時ザックスが真っ青な顔(暑いというのに)で駆けつけてくれたな、なんて自分の甘酸っぱい思い出を反芻したりした。
あれだって別に自分のことを心配してくれたというより、たまたま街で見かけたドジな一般兵をザックス持ち前の親切心から介抱してくれただけなんだ、とどんどんマイナススパイラルに落ち込むクラウドだった。

せっかくの休日なのに、やることもないし一緒に遊ぶ友達もいない。
ザックスのあの一言に思わず胸ときめかせて誕生日の日に休暇をとった自分がバカみたいだ。

クラウドはとぼとぼ兵舎に戻ると、いつものマズイ食堂の定食を食べ、部屋で昼寝でもすることにした。
少ない年休を取ったんだから、せめて体でも休めよう、そう思って自室の狭いベッドでイカレタ冷房のウインウインいう音を聞きながらうつらうつらした。

寝苦しい夏の昼寝は悪い夢を見させるものだ。
クラウドは次々といやな夢を見てびっしょり汗をかいて目覚めた。
ザックスが大怪我をする夢や自分の誕生日のことを確認したらすっかり忘れてる夢や、とっくにミッドガルに戻ってきてるのにクラウドのメールを無視してる夢や・・・

むくりと起き上がってふらふらとシャワーを浴びにいけば虚しさに涙がこみあげてきた。
やっぱりザックスに会いたいのだ。

頭から浴びるぬるいシャワーは涙も一緒に流してくれたので、オレは泣いてなんかいないと自分に言い聞かせてみたが、シャワー上がりに鏡に映る自分の目はなんだか赤くて情けなかった。

窓の外をみればとっくに日は落ちていて、もう夕食の時間だ。
食べなくてもいいかと思ったが、周りから貧弱な体だとバカにされるのがいやだったので、無理やりにでも食べることにした。

食堂のメニューはまたクラウドの嫌いな豚肉の脂っこいソテーで、なんとか飲み下そうとしても胸につかえるような気がしてとてもじゃないけど喉を通らない。
ほとんど手付かずのまま下膳すれば食堂のオバサンに、好き嫌いしてると大きくなれないわよ、なんて無神経なことを言われる。

時計をみれば今日という日もあと4〜5時間で終る。
つまらない、本当につまらない誕生日だ。

図書室から本でも借りて読もうなんて一応2〜3冊借りてきたが、頭の中を文字が素通りするだけで全く読めない。
『雪山行軍の基本装備と緊急時対応』なんてハウツー本をパラパラ見てたら、そういえばザックスは今回の遠征は北に行くとだけ言ってたな、なんて思いだし、また気持ちがざわめいた。

ぱたりと本を閉じて狭いベッドに寝転べば天井の隅の水漏れの染みまでザックスの顔に見えてきた。

もうやめよう、考えるのは。
寝転んだまま片手で顔をおおえば目をつぶってもザックスの顔が浮かんでくる。

時計を見ればもうすぐ12時。
日付はいまや変わらんとしている。

カチリ。腕時計の長針が短針と重なった。

ああ、今日が終った。
16歳の誕生日、誰からも声をかけられることもなくおめでとうの一言もなく終った。

でもだからなんなのだ?いつも通りじゃないか。

昼寝をしたから眠くもないが、まあそろそろ寝る支度をしよう、どうってことない一日が終るだけだ、そう思いながら着替えだしたら、廊下をばたばた走る音がクラウドの部屋まで響いてきた。後ろから舎監がとがめている声がする。こんな時間に迷惑なヤツがいるもんだ。

その時、クラウドの部屋の扉がバタンと大きな音を立てて開いた。

「誕生日おめでとう!!クラウド!オレ遅れた?」

ザックス!!

荒い息のままザックスはいきなりクラウドを固く抱きしめた。
激しくうつ鼓動が埃と硝煙の匂いのする戦闘服越しに伝わってくる。

クラウドは首を横に振った。涙がこみあげる。

「遅れてなんてない。ザッ・・・」
その後はもう口もきけなかった。

熱い唇が口をふさいだから。


2010/12/26
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DEAR MIHIRO

HAPPY BIRTHDAY!!!


with much love from cyunkiti

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