小さな夢

□綾様より
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その日の天気は雨だった。いつもよりも少し豪雨で、空はゴロゴロと鳴いていた。
木吉は体育館から外を眺め、ため息を吐いた。


『どうかしたんですか?木吉先輩』
「ん?ああ、うちの妹がな、雷嫌いなんだよ」
『そうなんですか』


雷が嫌いな女子は多いだろう、と比奈は頷いた。木吉はそんな比奈をみて「そういえば、」となにか思ったらしい。


「比奈ってうちの妹と同じ名前なんだよな」
『へえ!』


同じ名前とはあまり珍しくはないが、こんなに身近にいたことはない。


「比奈は雷とか苦手じゃないのか?」
『いえ、特に…』


そういえば、雷に怖がったことは一度もないな、と比奈は思い返した。


「おーい、木吉!」

更衣室からなぜか着替え終わった日向が出てきた。比奈と木吉は首を傾げたが、すぐに木吉はああ!と声をあげた。


「そう言えば今日はリコんとこの親父に呼び出されてたから日向に比奈のこと頼んだったな」
「たく、忘れてたのかよ…監督が雷が鳴りだしたから早くいけって」
「悪いな!これ、鍵な」


ちゃり、と日向の手に渡ったのは家の鍵。


「日向、くれぐれもいっとくが…手、出すなよ」
「たりめーだボケ!」


怒鳴りつけた日向だが、微かに頬が赤いことに気がついた木吉と比奈。
そしてそのまま雨の中走り去った日向が見送った二人。


『…日向先輩の彼女さんなんですか?』
「いや、違う!絶対にそれはダメだ!」


必死に否定する木吉だが、妹の様子と日向の様子で、だんだんと自信を無くしていった。


『可愛い妹さんがいると、お兄さんは大変ですね…あ、今度比奈ちゃんに合わせてくれませんか?なんだか同じ名前ってとても親近感が沸いちゃって』
「おう、いいぞー。比奈も絶対喜ぶ」




(ひ、ひゅぅがせんぱ…!)
(大丈夫、すぐ止むから!!(木吉!早く帰ってきてくれ!))
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