小さな夢
□記念に一枚
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前方には仲良く手を繋ぎ歩く二人の少女。
後方には妙な距離感のまま並んで歩く、という光景が出来たのはついさっきのこと。
「ダブルデートじゃなかったのかよ……。」
日向は何度目になるか分からない溜息をついた。
彼の恋人であるはずの木吉比奈はこの赤司との微妙な空気に気付くはずもなく。
(……………なに話しゃいいんだよ。)
そうしてまた溜息をついた。
「随分と多いですね、溜息。」
隣から赤司が話しかけた。
敬語こそ使ってはいるものの、威圧感が半端ない。
「まあ、気持ちは分からなくもないですが……、」
彼もまた、前方を歩く彼女らを見つめた。
恋人の前での彼は柔らかい表情だ。
「日向先輩!!」
振り向いた恋人はぶんぶんと腕を振り日向を呼んだ。
どうやらこっちに来い、という意味らしく赤司の隣を離れ彼女に近寄る。
「どうした?」
「次はあそこ行きましょう!!」
そう言って指差した先にはゲームセンターがある。
「いいけど…なんでゲーセン?」
「ちょっとやりたいことがあるんです!」
「行きましょう!!」と日向の腕を引っ張って歩きだした。
「征くん。」
残された赤司を白上比奈が呼んだ。
「征くんも一緒に行く?」
もちろん、赤司が最愛の彼女の申し出を断るはずもなく。
「当たり前だろう。」
そう言って比奈の手を引いて目的地に向けて歩き出した。
店内は訳の分からない音楽やゲーム機の効果音で騒がしかった。
「…………………まずい、」
とてもやばい。
予測しなかった事態に冷や汗が流れる。
休日の、人がごった返しているここ。
群集にもみくちゃにされている間に、気がつけば比奈と繋いでいた手はなにも掴んでいなかった。
「どうかしたんですか?」
声がして振り向けば揃って入ってきた白上たちがいた。
二人に状況を説明すると眉間に深いシワが刻まれた。
「それはまずいですね……。」
「早く探さないと、」と言って群集に向けて踏み出した比奈を赤司が片手で制した。
「征くん?」
「比奈が行くまでもないよ。」
「でも、」
「大丈夫。」
ふっと優しく微笑んで比奈を落ち着かせる。
そして赤司の色違いの双眸が群集に向いた。
「っまさか!!!」
はっと息を吸い込んだ。
「"天帝の眼"!!?」
「こんなところでっ!!!?」
能力の無駄遣いとはまさにこのこと。
だがそのおかげで木吉比奈は予想よりも早く救出された。
「圧死するかと思いました……。」
ぜぇぜぇと肩で呼吸し、赤司に「ありがとうございます。」と礼を言った。
「ほんっっと、居なくなったときは焦ったぜ……。」
「日向先輩もありがとうございました…。」
「おぅ……。」
今度は離さないようにしっかりと手を繋ぐ。
「そういえばやりたいことって何なんだ?」
「っそうでした!!やりたいことがあったんでした!!」
「比奈先輩!!」といきなり呼ばれた白上は少し驚いたようだ。
「どうしたの?」
「あれ、やりましょう!!」
「あれって……、」
「ダブルデートの記念です!みんなでやりましょう!!」
「わたしはいいけど……、」
ちらりと隣の赤司を見る。
「比奈がやりたいならぼくは構わないよ。」
同じように日向も頷いた。
ゲームセンターを出てまた街中を歩きだす4人。
「ぜったい剥がしちゃだめですからね!!」
「わーってるよ。」
「大丈夫だよ、比奈ちゃん。」
「比奈が剥がさない限りは貼っててあげるよ。」
そう話す4人の携帯には今日の日付とダブルデートと書かれた小さなプリクラが一枚貼られていた。
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