長編

□背中×手紙=?
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背中×手紙=?










(今日はいねえのか…)

屋上には誰も居なかった

昨日は先輩とバスケをした
結果は青峰の負けで、言う事を聞く、と約束した

「今日までに決めとくんじゃなかったのかよ」

ぽつりと呟いても、それは風に流されるだけ
誰の声も返ってこない

いつも先輩が立っている位置に立ってみた
その位置からは体育館が良く見える
今はどこかのクラスがそこでバレーをしていた

不意に背後の扉が開く
ぎい、と少し錆びているような音がした
青峰が振り返るより先に背中からどん、と誰かがぶつかってきた

振り向こうと身を捩るとその、誰か、はシャツを握りしめた

「振り向かないで」

その声は先輩の声だった
ただ、昨日やその前とは違い、微かに震えているような声だ

「このままで、いさせてくれないか…」

その震えは次第に大きくなり、青峰の背中で泣き始めたのが分かる
声を押し殺して、シャツを掴んでいる手が小刻みに揺れる
どうしていいか分らず、しばらくされるがままになっていた

10分くらいそうしていると、先輩の涙は徐々におさまってきたようだ

「…なんか、あったのか」

聞いていいのか悪いのか分らないが、おそるおそる聞いてみる
先輩はいまだ青峰にしがみついたままだ

「なんでも、ない」

震える声で答えた

「なんでもないはずねーだろ」

少し語気を強めて言ってみた
びくっ、と先輩の体が小さく跳ねた

「…昨日、手紙が来たんだ」

「手紙…?」

こくんと頷いたのが分かった

「母さんから…、もう家には帰らないって」

また、ひとりになっちゃった、とか細い声がいう

「どういうことだよ」

それから先輩はぽつりぽつりと話し始めた












「家は小さい時に両親が離婚してて、私は父さんに引き取られたんだ。

その父さんは私が小3の時に交通事故で死んで、母さんが私を引き取った。
それからは母さんと一緒に暮らしてたけど、私が中学に入ったころに新しい恋人ができて、
最近じゃほとんど家に帰って来なくなってた。

たまに帰ってきても恋人が一緒で、その人は暴力ばっかふるってて、私はよく殴られていた。
いらない子どもだって、何度も罵られた」

シャツを掴んでいる力が少し強くなった
それでも、と先輩は続けた

「たまに、会ってくれるだけで、嬉しかった。
一人でいるよりはずっと良かったのにっ」

一人になんて、なりたくなかった

その言葉は屋上の空気を震わせた

再び彼女は背中で泣き始めた

「…隠すなよ」

青峰がぽつりと呟いた
くるりと身を反転させ先輩と向き合う

「泣きたいなら堂々と泣きゃいいじゃん」

オレにかくすんじゃねーよと言う
優しく、先輩の体を抱きしめた

「アンタ、一人で気張りすぎなんだよ。
オレ達はまだ中学生だぜ?もっと甘えたっていいんじゃねーの?」

ぽんぽんと軽く頭を叩いてやる

「泣いてるのが見られたくねーんなら、こーしてりゃみえねーだろ?」

「ガングロ君…」

「泣きたいときはオレの胸貸してやっからよ。
オレの見えないとこで泣くなよ…」

耳元でささやく
背中をさすってやると先輩はまた泣き始めた
今度は声を殺さずに

「君は、お日様みたいだな」

落ち着いてきたころに先輩が言った
誉めているのかなんなのかは分からないが、ありがとう、と返しておいた

「約束…」

「あん?」

「今、決めた」

青峰の方に埋めていた顔をあげて言った

「ちゃんと、母さんにさよならって言う」

だから、と続ける

「一緒に会いに行ってくれないか」

「…言う事聞くって約束したからな」

逆らえるわけねーじゃん、とつなげる
少し笑ってみせると彼女も小さく笑う

「んじゃ、早速行くか」

「え」

「んだよ」

「今から行くの?」

「早ーほうがいいだろ」

ほら、と先輩に手を差し出す
それに彼女が手を重ねるのを待って屋上の扉を開ける

ぎい、と少し錆びているような音がした
















学校からの逃亡






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