長編

□電車×人工呼吸=?
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電車×人工呼吸=?












夕方、青峰と先輩は電車に揺られていた
先輩の母親に会いに行った帰りだった
帰りの電車に乗ったばかりの時は涙ぐんでいた彼女も今は落ち着きを取り戻していた

時間帯に的にも帰宅する学生やサラリーマンの姿が目立ってきた
座席に座ることなく立って電車に揺られている

「すまない、こんなことに巻きこんでしまって」

「別に迷惑だなんて思ってねーよ。
オレはアンタとの約束を果たしただけだ」

「付き合ってくれてありがとう、ガングロ君」

「だからもういーって」

俯き加減の彼女が言った
先程から何度もその言葉を繰り返している
青峰はそのしつこさに溜息をつく

「しかし、混んできたな」

最初のうちは少なかった人も少ずつ増えていき、少し揺れると人にぶつかった
青峰ほど体格の良くない先輩はさっきから何度も人にぶつかられてはよろけていた

「大丈夫かよ」

ぐい、と腕を引っ張てって彼女の体勢をなおす

「…大丈夫じゃない」

気持ち悪い、と呟いた
青峰の体に寄りかかる

「吐くなよ」

「努力する…」

うぅ、とうめき声が漏れた

「ったく、しゃーねーな」

先輩を壁際に連れて行き、寄りかからせた
それから自分の体で彼女をかばうように目の前に立つ

「これで、人にはぶつかんねーだろ」

「君は、大丈夫なのか」

「アンタとは体の作りがちげーんだよ」

確かに、誰かがぶつかった程度で青峰の体勢が揺らぐことはなかった

「…ガングロ君」

「なんだよ」

「くるしい」

「は?」

いきなりの発言に眉をしかめる
少なくとも人混みの中にいない分、先程より圧迫されていないはずだ

「人、多い。酸素、少ない」

「なんでカタコトなんだよ…」

胸を上下させ深呼吸している

「苦しくて、息が詰まってしまいそうだよ」

再び小さくうめき声をあげる
青峰は本日何回目か分らない溜息をついた

「…なぁ」

思いついたように青峰が口を開く

「人工呼吸って知ってるか」

「え、」

先輩がしゃべる前に彼女の唇を自分のそれでふさぐ

「んっ」

甘ったるい声が先輩から漏れる
幸い周囲の人々は雑音にまぎれたそれには気付かなかったようだ

たった数秒間のそれが随分長く感じた

「…困ったな」

こてん、と先輩が頭を青峰の肩に乗せる
俯いたまま続けた

「君がいなければ呼吸できなくなってしまう…」

そう呟いた彼女は耳まで赤くなっていた

「…苦しくなったら、何回でもしてやるよ」

先輩の肩を抱き寄せる
首筋に顔を埋めて顔を隠す
青峰の顔もきっと真っ赤になっているだろう
















キスの言い訳


(今度はオレから)








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