短編
□実と花
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実乃は啓太と共に歩きだした。と、しばらくして……。
――ドンッ!
いきなり後ろから抱き着かれた。そう、いつものことだから、抱き着いてきたのは誰だか実乃には分かっている。
「よお。おはよ、花乃」
「おはよ、啓太。みの〜、ひどいよ置いてくなんて〜。しかも最近ちっとも驚いてくれないし」
そう言って実乃の頭をぐりぐりするのは花乃。いつも実乃と啓太は途中で出会い、また途中から追い掛けてきた花乃が合流してくる、飽きるほどに繰り返されてきた、毎日のいつものパターン。
「毎日じゃ慣れるし飽きるんだろ。ほら、頭ぐりぐり止めてやれ、実乃がかわいそうだろ」
実乃の気持ちを代弁してとっとと歩き出す啓太。すると、花乃はタタッと実乃から離れ、啓太の右腕にするりと自分の腕を絡めた。そう、いわゆる腕組みというやつ。
いつもと違うその花乃の行動に、実乃は思わず固まった。
「邪魔。離せ」
「照れてるの〜、啓太?」
啓太の言葉にからかうような声をかける花乃。文句を言って、無理矢理腕を引きはがす啓太。そのやり取りを、実乃は離れて見ていた。
と、啓太が実乃の方を振り返った。
「実乃? そんな離れて何してんだよ。ほら、こっち来いよ」
啓太が実乃のところまで戻ってきて、グイッと実乃の手を引いた。その時チラリと見た花乃は、寂しそうな表情をしていた。だが、すぐにいつもの明るい笑顔に戻った。
啓太と実乃が来ると、花乃も歩き出した。三人でいつものように歩き出す道。だが、啓太はまだ実乃の手を繋いだままだった。
「あらあら、二人はいつまで手を繋いだままなのかしら? こうしてみるとまるで恋人同士みたいよ?」