短編
□実と花
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からかうように花乃は啓太と実乃に言う。
「癖だよ、癖っ! 体に染み付いてんだよっ! 実乃いっつも行方不明になるからっ!」
顔を赤くして叫びながら啓太はぱっと実乃の手を離した。
実乃はひどい方向オンチというもので昔から外に出るとすぐ迷子になっていた。そのため啓太が加わり外に出る機会があると啓太はいつも実乃がはぐれることがないよう、実乃の手を自分の手に繋いでいた。そう、それはまるで『兄』のような存在。
啓太は自分を実乃の『兄』だというような行動をよくする。その度、啓太にとって自分はただの『妹』でしかないのだと、実乃はいつも認識する。花乃は実乃よりもずっとしっかりしているから、啓太もたまに頼りにしている節がある。
実乃は花乃と啓太の『妹』で、花乃と啓太は実乃の姉と『兄』。そのように思えるこの三者の関係に、実乃は泣きたくなることも何度あったろう。
実乃は啓太に『妹』としてではなくて、『同い年の女の子』として見てほしいと、どれぐらい考え続け想いつづけているだろう。
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平日は学校に行って過ごして帰る、休日は家でのんびり過ごしたり外に出掛けたりして好きなように過ごす。
そんな繰り返されるいつもの日常が、ちょっとした出来事で変わる。そのきっかけは何だったろう?
あの日の私の行動か、その時の彼の反応か。