ワールドトリガー
□世界に唯一つしかない“代替品”
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”空閑有吾”
人型近界民…空閑遊真の父親。
旧ボーダーの創設に関わった人物。
林藤さんと忍田さんの先輩で、城戸さんの同輩。
しかし三雲君の話によればもう亡くなっているとのこと。
そのことを聞いた時の3人の表情は何ともいえないものだった。
逆に私達4人も状況が掴めないでいる。
いや、唐沢さんは違うかも。
「しかし、そういうことならこれ以上部隊を繰り出す必要はないな。有吾さんの子と争う必要などない」
そう言って忍田さんは城戸さんを見る。
確かにそうだ。
自分達の先輩の息子が、亡き父の代わりに帰ってきて、自分達を頼りにしてきたのだ。
近界民だろうが関係ない。
城戸さんにとっては同輩にあたる人の息子なんだ、城戸さんだって部隊(というか私達)を追ってに出すのを止めてくれるかも。
そう淡い期待を抱いてみたのだが、私の脳内の城戸さんはそんなことを言うような気がしない。
「まだ空閑の息子と確認できたわけではない。名を騙っている可能性もある」
「それはあとで調べれば分かることだ。迅、三雲君。つなぎをよろしく頼むぞ」
城戸さんの反論にも忍田さんは若干強引に推し進めた。
たぶんボーダー内で城戸さんにこんなことできるのはこの人だけだと思う。
「……はい!」
「そのつもりです、忍田さん」
元気よく返事をする三雲君の表情は明るい。
今思ったがこの子無表情そうに見えて意外に表情豊かな子だ。
迅さんは…いいか。
いったいどうするつもりだろう。
そう思ってじっと城戸さんを見れば、目が合ってしまった。
(っ…!?)
驚いて、思わず目を逸らしてしまった。
あの人がこっちを見ることなんてあるのか。
というか目を逸らしてすみませんでした。
「…………では解散とする。進展があれば報告するように」
私が目を逸らしたのにも一切動じず(そりゃそうだ)城戸さんは会議を終わらせる。
バタン、と音を立てて城戸さん派の幹部以外の人達が会議室から出て行った。
…忍田さんがこっちを見ていたのは気のせいだろう。
「このままで良いのですかな?城戸司令。クガとやらのことはようわからんが……」
「そうですねぇ。このまま玉狛が黒トリガーと手を結べば、ボーダー内のバランスが」
「わかっている。空閑の息子かどうかは別問題として…黒トリガーは必ず我々が手に入れる」
やっぱり城戸さんはこういう人だった。
たとえ自分の同輩の息子であろうと、切り捨てられるのだろうか。
(何か思うところはあるんだろうけど)
私なんかに分かるわけがないか。
そう思って再び城戸さんを見れば再びあう視線。
…今回はちゃんと逸らさなかったぞ。
「苗字」
「はい」
「君は今の迅の反応をどう思った」
てっきりさっさと任務を遂行しろとか言われれると思っていたから驚いてしまった。
根付さんがどこか心配気に私の方を見てくる。
「私は、どこか違和感を感じました」
「ほう…違和感、とは?」
「ひとつめは何で先に玉狛支部の方で近界民を保護しなかったのかということです。あの人達の性格ならそうした方が有利じゃないかと思ったんです、けど…」
私は何でこんなことを話しているんだろう。
そもそも私なんかの意見が役に立つんだろうか。
そう思って言葉を濁せば「構わない、続けてくれ」と続きを促す城戸さん。
「最初は本部公認で近界民を捕まえるという名目で保護する口実を手に入れるためだと思いました。だけど、それ以外にも何か目的があるんじゃないかって」
「別の目的とは」
「それは、分かりません。だけど口実を手に入れるだけの為に高いリスクを払ったってことが腑に落ちないんです。あと、」
「迅さんのああいう顔はよくないことを企んでるときの顔です」そう言えば鬼怒田さんに笑われてしまった。
城戸さんは城戸さんで私の意見を聞いて少し考え込む。
いやそんなに考え込むことですか。
「参考になった。苗字はもう上がれ」
「分かりました」
「あと、今回の任務については君は参加しなくてもいい」
「…へ?」
「君の活躍の場は別で作ることにしよう」
「了解です、じゃあ失礼します」
…なんだか追い出された気分だ。
「名前ちゃん」
「忍田さん?」
「ちょっといいかな」
こんな展開前にもあった気がする。