ワールドトリガー

□護りたい 護らせて
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Zin side


「…なによ、それ」


俺の言った言葉にうろたえたような声を出す名前ちゃんの表情は、声色とちぐはぐな無表情。
元々あんまり喋らないし感情を表に出さないような子だったから別にそこまで気にしない。


「俺も視えただけだからどういう状況だったのかも分からない」


いつもだったら本人の知らないところでこっそり助けてあげるつもりだった。
だけど、今回視えたのは普通の泣いているとは違う光景だったから。

血だらけで、馬鹿みたいにぼろぼろ泣く後輩ちゃんの姿なんてあまり見たくない。
彼女が泣くだなんて滅多にないだろうからよほどのことなのも分かる。


「でも泣いているだけなんですよね。それ位で本部を抜ける気にはなりませんよ」

「ま、考えておいてよ。こっちはいつでも大歓迎だからね」

「天地がひっくり返ってもないですけどね。お心遣いだけ受け取っておきます」


そう言いヘルメットを被り出す。
え、ちょ、帰っちゃうの。


「ちゃんと家まで送っていくよ」

「結構です。多分送っていったところで根付さんに半殺しにされるだけですよ」

(うわあ想像できる)


根付さんは名前ちゃんのことを自分の娘のように可愛がってる。
…本人が独身なのには何も言わないということで。
俺達にはふたりの間に何があるのか分からないけど、あの2人は本当の親子みたいに仲がいい。

過去に米屋が2人の仲を怪しんで怒鳴られて、俺と同じように名前ちゃんを家まで送っていった太刀川さんは半殺し状態にまでされてた。
ぶっちゃけふたりが悪いんだろうけど。

別に家まで送っていくことに関しては根付さん曰く構わないらしいが、その時の太刀川さんは軽く酔っ払ってたらしい。
風間さんの制止を振り払って家まで送っていったって聞いたからこの件に関しては太刀川さんが悪い。


「俺まだ死にたくないからここまでにするね」

「ここまでありがとうございました。迅さんも、お気を付けて」


ロードバイクに跨って、みるみる小さくなっていく彼女の背中に小さく手を振る。

久しぶりに話したけどやっぱりお堅い子だったという印象が残る。
打ち解けた相手とはリラックスして喋れるみたいだけど、苦手だったり普段から関わらない相手とは多少壁がある感じ。
同じS級の天羽なんかとは、お互い名前で呼び合ってるのをよく見かけるからかなり仲がいいんだろう。


「俺も同じS級なんですけどねー」


きっと彼女は俺に対して劣等感かなんかを抱いているんだと思う。
天羽みたいに無関心でいられるわけでもない(寧ろあれはもう少し周りに目を向けるべきだと常々思ってる)真面目で責任感の強い彼女のことだ。
多少なりとも感じないわけがない。

それに関しては前に根付さんも言っていた。
本人の前では絶対に言わないが、あの人はかなりの心配性だ。


(これから仲良くなればいっか)


可愛い後輩の泣き顔なんて見たくないし。





  
 

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