ワールドトリガー

□嗚呼、どうして戦い始めたんだっけ?
1ページ/1ページ






忍田さんとのティータイムも終わり根付さんを迎えに会議室を迎えに行った後。
私は根付さんの提案で根付さんの家に泊まりに行くべく、車に揺られていた。

基本的に車の中では私は大人しくしている。
というか大人しくしていることしか出来ないのだ。
…私は三半規管が弱いからすぐに車酔いをするので。



「名前」

「なあに、根付さん」



私の隣で車を運転する根付さんは、私に声を掛けているが視線は真っ直ぐ前を向いている。
だけど私の名前を呼ぶ声はどこか心配するような感じの声色。



「今日の会議ではよく喋っていたねぇ、珍しい」

「だって城戸さんが私に話を振るんだもん」


「…お前は、いつもあんなことを考えているのかい?」



今まで話していたのとは違う声のトーンに窓の外を見ていた顔を根付さんに向ける。
夜の車の中だから、運転席に座っている私よりも背の高い根付さんの表情は分からない。

だけど、声は悲しげで。
私はこの声が苦手だった。

この声を聞くと小さい頃に叱られた時のことを思い出す。
根付さんは泣いている私達の頭を撫でたあと、必ずこんな声で優しく、私達にもうしないようにと言い聞かせてくれた。


この声を聞くたび居心地の悪い、あの頃叱られたような感覚を思い出すのだ。




「うん」

「やっぱりそうなのか」

「物事の全体を見据えて行動しろって教えてくれたのは根付さんだもの」



そう言えば根付さんは「大きくなったねぇ」と笑った。


(…?)


だけどその笑みは、今日の会議室で見せたような、どこか困ったような顔。
その表情に何か違和感を感じてしまった私は、きっとどうかしてる。





 Neduki Side


愛車の助手席に座る自分の娘も同然の子供を見て、私は心の中で大きく溜め息を吐いた。


(いつからそんなことを考えるようになったんだい)


根が真面目な子だった。

それは城戸さんも鬼怒田さんも言っていた。
彼女がS級になる前も今も、言われた仕事をきっちりこなす優秀な子だと。

優秀、と誉められるのは嬉しくないわけじゃない。
だけどそれ以上に、彼女にはこんな仕事が似合わないと思ってしまう自分がいる。


ボーダーに入りたいと言ったのは名前からだった。


名前を施設から引き取ってまもなく私がボーダーにスカウトされ、三門市へ行くことになった時のことだ。
自分もボーダーに入ると言って聞かなかったのを今でも覚えている。

初めはひとりが寂しいのではと思った。
だけどその理由は違うらしく、私は一度もその理由を聞いたことがない。


だが、本人が言おうとしないかぎり私は無理に聞こうとは思っていない。
きっと名前には名前なりの考えがあるのだと。
この子は理由なくこんな仕事を選んだりしないのだと。




(あの子がいたら、今の名前を見たらどう言うんだろう)




「今日のお夕飯は何がいいですか?」そう言って笑う名前の頭を撫でながら、私は今は居ない、この子の家族を思い出した。



   
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ