ワールドトリガー
□やさしい夢を視た
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「 、早く行こうよー」
「まって名前!」
酷く優しい夢を見た。
何か胸に痞えているものが消えて、幸せな気持ちで咽帰るくらいに優しい夢だった。
いつもこの夢だけ見れたらいいのに。
「助けて、痛い、」
この幸せな夢を見ると。
「死にたくない…!」
必ず最後は悪夢に変わる。
「……っ」
「名前?起きたのかい?」
目覚めの悪い朝だった。
「早く起きなさい」と言って根付さんが開けたカーテンの光りが眩しくて、目を細める。
根付さんの家に泊まってから三日目。
周りを見渡してみれば自分の借りているマンションとは違う景色が広がっていて昨日は根付さんの家に泊まったことを思い出した。
朝ごはんを作っておくから早く来いと急かされ自分の寝間着に手をかける。
(嫌な夢を見た)
体中が冷や汗をかいていて涙も出ていて。
朝からこんな憂鬱な気分で学校に向かうと考えると、余計に気分が沈む。
普段はあまり見ない夢。
だが、根付さんの家に泊まると時折見るのだ。
私が根付さんに引き取られる前に居た施設の頃、私とずっと一緒に居た子を。
「根付さんのとこに、行かなきゃ」
キッチンできっと朝ごはんを用意してくれているから。
フレンチトーストと目玉焼き、それとコーヒー。
根付さんの作ってくれた朝ごはんだ。
「ああ、そうだ」
「ほうかひまひは(どうかしました)?」
「…口の中が無くなってから話しなさい」
口に含んでいたフレンチトーストをコーヒーで押し流す。
食べあわせが悪くて、思わず顔を顰めた。
「城戸さんから任務だそうだよ。今日の夕方から」
「夕方ですか?少し遅くありません?」
任務と言われて思い出すのは、この前あった黒トリガー回収の任務だ。
あの時は迅さんに一任するということで終わったがあれは一体どうなったんだろう。
想像がつくとすれば近界民が玉狛支部に…ボーダーに入隊するか、普通に保護するか。
保護した場合はきっと城戸さんが難癖つけて本部に回収するだろうから多分前者だろう。
「今日は遠征部隊が帰ってくるから、遠征部隊と三輪隊の合同部隊で黒トリガーの回収に向かうらしい」
「なんとまあ豪勢な合同部隊ですね」
「ほんとにねぇ…私は交渉で済めばそれでいいと思うんだけど、城戸さんが言ったことだし仕方ない」
というか遠征部隊の負担は多くないのだろうか。
城戸さんもなかなか鬼畜なことをする。
私は遠征に行ったことがないから分からないが、遠征に行くのは当然疲労やストレスが蓄積されている…って歌川君が言っていた気がする。
もう前のことだからいまいち思い出せない。
「でもそれだけいるのに私の仕事って何なんで…あ、月彦も任務に参加するとか?」
「あるわけないだろう」
ばっさり切られた。
私の黒トリガーの能力は基本的に防御、この国の防衛に使われる。
防衛と言っても近界民が本部周辺に攻め込んでくるだなんて滅多にないから基本他のA級隊員と仕事内容は同じだ。
週に何回か、本部や三門市の特別防衛訓練をする位。
その能力の甲斐あってか、辺りをやたらめったら破壊する月彦と私はよく組まされる。
「お前はもしもの場合の保険だよ」
「居る意味あるんですか、それ…」
まあ、黒トリガーを相手にするのはA級隊員が何人かかっても厳しいのは自分もよく知っているから納得は出来る。
戦況はいつ変わってもおかしくないものだから。
でもあのA級メンバーが敗北する姿をあまり想像出来ないのだ。
「私はお前が無茶をしないかが心配だよ」
寝起きの憂鬱な気分もどこかへ行ってしまい1人悩む私に、根付さんはそう言ってどこか憤慨したようにコーヒーを啜る。
その一言がとても嬉しくて。
「根付さんがそう言ってくれるなら、私は絶対に無茶なんてしませんよ!」
私を心配してくれたことが嬉しくて緩む顔で、言い切った。