ワールドトリガー

□後悔はないけれど。
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内緒で三雲君とレプリカさんに会ってきてから数時間後。
私は根付さんの仕事部屋で、学校から出された課題に勤しんでいた。



「名前」



根付さんに名前を呼ばれて顔を上げる。



「もうすぐ遠征部隊が帰還するようだ。お前も行くかい?」

「いえ、やめときます。この課題終わらせたいですし」

「分かった。でも少ししたら会議室に来なさい、城戸さんが呼んでいたよ」

「はーい」


再び課題に集中して生返事した私に、しょうがないなあという様に笑う。
私の横を通り過ぎる時に頭を撫でてくれた。












「…あ」


課題もあと少しのところに差し掛かった頃。
私は城戸さんに呼ばれていたことを思い出し時計を見れば時間はすでに根付さんに言われた時間に近づいていて。

こんな日に限って古寺が居ないものだから気付かなかった。
いや、あっちには全く非はないんだけど。

机の上の課題をそのままに、私は根付さんの執務室から飛び出した。
…制服のジャケットは走りながら羽織ることにしよう、時間ないし。



「お、苗字じゃん」



会議室に向かう途中の道で声を掛けられ止まる足。
急いでいるのに一体誰だと思いながらも後ろを向けば、そこに居たのは今回の遠征部隊の数人だった。



「出水先輩」

「久しぶりー元気にしてたか?」

「元気にしてますよ。先輩もお疲れ様でした」

「台詞と表情が見事に噛み合ってないぜ」



そりゃそうだ。
急いでるときに声掛けられたんだから。

急いでいるんで失礼します、そう言って出水先輩の横を通り過ぎようとすれば、誰かにジャケットの襟首を思い切り引っ張られた。



「痛い」

「お前、次は何を…って苗字!?」

「なに歌川気付いてなかったの?」

「せめて居るって言ってくれよ…」



私の襟首を掴む菊地原と、その横でうな垂れる歌川君。
というか次は何をって、一体何をしたんだ菊地原。


「痛いんだけど」

「最初に挨拶くらいしたら?」

「そっくりそのまま君に返すよ」


結局なんだかんだ言って離してくれた。
相変わらず優しいのか酷いのかどっちか分からない奴だ。

問題児菊地原の隣で困ったような表情の歌川君を見たのもなんだか久しぶりな気がする。
歌川君が挙動不審なのは変わってないけど。



「話したいのは山々なんだけど、私城戸さんに呼ばれてるんだよ」

「あの「ジュースくらい奢ってってよー」

「また今度ね。じゃあ私行くから」



歌川君の言葉に被せる菊地原に苦笑しか浮かばない。
この人はいつ見ても大変そう。
主に隣の奴のお世話で。

2人へ背を向けて走ろうとすれば、急に捕まれた肩。
また菊地原かと思えばなんと私の肩を掴んだのは歌川君だった。
思わず驚いて固まってしまった。


「きゅ、急に引き止めて悪い」

「それは別にいいんだけど。どうかしたの?」

「あーいや、そのだな」

「早く言いなよ歌川」


菊地原にわき腹をつつかれ…あれは多分つつくってレベルの音じゃなかった。
痛みに耐えているのかなんなのか。
真っ赤な顔で口ごもっている。



「任務が終わってからでいいから、話せるか、お前に渡したいものがある、から」

「うん、分かった」

「が、」

(……蛾?)

「頑張れよ」

「任務のことね」



最後の最後で菊地原のフォローが入ったことに驚きだ。
歌川君はそれを言うなり黙って下を向いてしまった。
…もう行っていいのだろうか。

そう思って視線を菊地原に向けてみればさっさと行けとジェスチャーされた。



「歌川君」



「お疲れ様」そう言って私は会議室へ走っていった。

後ろで歌川君が膝を付くような音がしたけど大丈夫なんだろうか。
大方菊地原にお腹蹴られたとかそんな感じだと思うが。




  
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