ワールドトリガー
□僕が知らないだけで、君はいつだって戦っていた
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Kodera side
玉狛支部に入隊したらしい近界民の持つ黒トリガーの奪取。
遠征部隊と俺達の隊の合同チームで任務に挑んだわけだが、そこで1つ問題が生じた。
S級である迅さんの介入。
林藤支部長と忍田本部長が手を組んだことで、迅さんの加勢に来た嵐山隊。
最初は迅さんだけなら合同チームで抑えられると思っていたが、嵐山隊が加勢しにきたことによって一気に形勢が逆転された。
そして、今に至る。
風間隊の歌川と菊地原はベイルアウト。
冬島隊の狙撃手の当真さんは三輪先輩達の方に行ってしまった。
風間さんと太刀川さんも、迅さんを追い詰めたはずが逆転されて窮地に陥っている。
攻撃手が居なくなった今、狙撃手である俺と奈良坂先輩が出来ることは数少ない。
これ以上下手に攻撃すればバックワームを着ていたとしても、狙撃パターンを逆算される恐れがある。
まさに絶体絶命と言っていいだろう。
(黒トリガーひとつでこんなにも変わるなんて…)
この場合、迅さんのSEも関係しているんだろうけど、それでも黒トリガーの力は絶大だ。
これだけの威力を持つ黒トリガー同士がぶつかったら一体どうなるんだろう。
迅さんと同じS級の同級生を思い出す。
彼女は玉狛支部じゃなくて本部の隊員だから城戸さんから指令が下されれば、迅さんと戦うことになるはず。
(あいつが今ここに居れば、黒トリガーの奪取に行けるのに)
もちろん俺と奈良坂先輩のふたりで玉狛支部に行くのは好んでベイルアウトされにいくのと同じことだ。
嵐山隊と交戦中の三輪先輩達がここに来てくれれば行けるのに。
先輩達が負けるなんてあまり想像が付かない。
スコープ越しに、迅さんと太刀川さん達が話しているのが見える。
これじゃあふたりがベイルアウトされるのも時間の問題だ。
一旦奈良坂先輩の指示を仰ごうと思ってインカムに手をかけた瞬間、
「そこにいるのは古寺?」
「なっ…!?」
俺の後ろに、ここに居るはずのない彼女が立っていたのだ。
思わず大きな声を上げてしまった。
「ななななんでここに苗字が!?」
「何でって、任務」
さも当然のようにそう言って、自分の武器である黒トリガーをぶん、と一回転させる苗字。
いつ見ても身体の大きさに不釣合いな武器。
「古寺がここにいるってことは奈良坂先輩もどっかに隠れてるの?」
「い、いるけど…」
「じゃあ撤退してくれって伝えておいて。狙撃手とは連携取り辛いから」
「それじゃよろしく」それだけ言うと、太刀川さん達の居る方へ走っていく。
…あれはもう走ってくじゃなくて突っ込んでくって言った方が正しいかも。
まだ言いたいことはいくつかあったがそれは全部が終わってからでも出来る。
とりあえず、奈良坂先輩と三輪先輩達に報告をすることにした。
「先輩方、古寺です」
『章平?どうかしたのか』
インカム越しに奈良坂先輩の声がする。
「今S級の苗字が来ました。奈良坂先輩と俺は撤退しろって…」
『だったら三輪達の加勢にいくぞ』
『その必要はない』
「『?』」
三輪先輩の言葉に驚く。
行かなくてもいいということは、もう嵐山隊との決着がついたのだろうか。
そう思って理由を聞けば米屋先輩が教えてくれた。
『さっき俺達の方にも苗字がきた。結局あいつが嵐山隊にトドメさしやがってよー』
『城戸司令から撤退命令が出ている。後のことは苗字に任せるとのことだ…退くぞ』
獲物が奪われて不満なのか、ぶうぶう文句を言っている米屋先輩との回線を切ったのは多分三輪先輩だ。
あの人はこういう時も容赦ないな。
『俺達もいくぞ、章平』
「あ、はい!了解です」
一旦奈良坂先輩と合流、それから三輪先輩達のところに行くということになったので、指定されたポイントへ足を向ける。
立ち去る時に苗字の様子が気になって、最後にスコープから迅さん達の状況を見ることにした。
「え」
スコープから視えた光景は、
苗字が迅さんの腹を思い切り殴り飛ばしたところだった。
(トリガーはどこいった!)