ワールドトリガー

□君を見て笑う、夢を視て泣く
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Zin side




気が付けば俺は、真っ暗な場所に居た。



(…夢でも見てるのか)



確か俺は名前ちゃんにトリオン供給器官を破壊されて気を失ったはず。
たぶんまだ気を失ってるだけなんだろう。
そして、今視えているものはサイドエフェクトのせい。



(ここどこだ?)



せめて真っ暗じゃなくて何か見えるなら場所が分かるのに。

そう思って周りを見渡せば、遠くて薄暗く光っている部分があるのに気付いた。
近づいてみるにつれてはっきりと見えてくるその光景。


 あははっ


沢山の子供の声がする。
何人かの子供が、1人の大人…あれはお坊さん?僧侶?の周りに集まっていた。


(幼稚園か保育園ってことかな。でも何でお坊さんなんだ)


もっとよく見てみたい。
はっきりとした光に近づいた次の瞬間。



『何だこれ…!』




崩れた建物。

泣き叫ぶ子供達。

燃え上がる炎。



 た、すけて…



とても小さな聞こえるか分からないような子供の助けを求める声。

せめて顔が分かればその子を助けられると思って周りを見渡したが怪我をしている子は見当たらない。




「……さん!」



(子供はどこだ、一体どこに、)



「…さん!…んさん!」



(まさか瓦礫の下!?)








「迅さん!」



「………あれ?」




目の前には暗くなった空と名前ちゃんの顔。

夢が消えたってことは目が覚めた(この場合気を失ってたから気が付いた)らしい。


「良かった生きてた…」

「勝手に殺すなって」


倒れている俺の顔を覗きこむように座っていた名前ちゃん。
目が覚めた途端、今にも泣きそうな安堵したような表情に変わったのでギョッとする。

流石に泣かれると俺の命が危ないから。



「名前ちゃんも能ある鷹でしたか」

「?そうなんじゃないんですか」



意味は分からないという表情をされたがまあいいだろう。

今回の敗因は俺の情報収集不足と名前ちゃんの奇襲に対応しきれなかったこと。
さっきの戦いで初めて見る攻撃が多すぎた。



「あれ、太刀川さんと風間さんが居ない」

「とっくに迅さんの流れ弾に当たってベイルアウトしましたよ」

「………」

「………」

「あははー…」


後で謝りに行こう。




「で、名前ちゃんは俺が起きるの待っててくれたの?」

「はい。話したいことがありましたから」


上半身だけ起き上がって近くの塀に座った俺の横に、名前ちゃんがすとんと腰を下ろした。


「戦いの最中に私言いましたよね。迅さんの風刃を奪うって」

「言ったねぇ。まさかそんな行動を取られるとは思ってなかったから驚いた」

「そこで提案なんですけど」


俺を見上げるような形で目を見てくる。
さっき戦ったのが嘘かのような真っ直ぐな視線に居心地が悪くなった。


彼女の提案を聞けば、それは思わず黙ってしまうようなもの。
驚いた顔をしたら向こうも驚いた顔をしてくれた。



(この子は相変わらず不器用だ)



不器用というか詰めが甘い。
任された任務だけをすればいいのにこういった余分なことを言うところが彼女の欠点だと思う。

甘ったれ。
言い方を変えれば優しすぎ。

大抵の人間は彼女のことを任務をこなすだけの冷たい人間だと思いがちだけどそれは違う。


やっぱり名前ちゃんにはこんな場所は似合わない。




「やっぱり名前ちゃんって不器用だね」

「いきなり何を、」

「不器用っていうより馬鹿?」

「なっ」



彼女の提案とは、風刃を本部に渡す代わりに何か本部側に要求したらどうだというもの。
そして名前ちゃんが城戸さんに口ぞえするとのこと。

本当に、甘い子。




「そういうことするとさ」


「…!?」


「こういう目に遭うんだよ」




不思議そうに首を傾げた彼女の首に手刀を入れれば倒れる体。



「おっと」



地面に付く前に抱きとめておんぶする。




(ごめんね)





  
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