ワールドトリガー

□Honey Rain
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結局迅さんの要求を呑むということでお開きとなった会議。
途中からは私にとってまったく分からない単語ばかりだったかのと、疲れから意識が朦朧としていたのであまり覚えていない。
「真の目的」とかなんとか。

最後に根付さんから今日聞いたことは内密にしておくように口止めされたけど、覚えていないので他言することもない。

朦朧としていた意識の中で迅さんの語った今回の行動の理由。
それが今の私の頭の中を占めている。

彼は後輩達を支援したいだけ、と言っていた。
思い当たるのは最近玉狛に移転したと聞いた三雲君だが、きっとそれには近界民の子も含まれているはず。


今までの迅さんの行動を見ていると必ず何かしら裏があるようにしか思えない。
だけど、後輩達の為にと言う彼の言葉は嘘をついているようには思えなかった。



(今度風間さんに聞いてみよう)


「名前ー諏訪さん達の車来たぞ!」


「苗字立てる?」


ボーダーの駐車場のベンチに座っている私に日佐人が声をかけてくれた。
隣に座る古寺が俯いている私の顔を覗きこむ。


「大丈夫。っていうか古寺の親来たよ」

「あ、ほんとだ」


諏訪さんが車を止めてあるすぐ横に止まった車を指差せば、助手席から古寺の母親がこちらに向かって手を振っていた。



「じゃあ俺行くから…あんま無理しないようにね」

「ありがと」


車の方に向かっていく古寺を見送りながら、日佐人が手を貸してくれたのでそれを支えに立ち上がる。
流石に今日は疲れた。


「おぶってやろうか」

「別にいいよ…そもそも出来るの?」

「んだと」


手を貸してもらって車まで移動する。
日佐人はからかったことに何を思ったのか。
「お前見てろよ!」と言うなり私の腕を思い切り掴む。



「へ?っうわ!」


「見たか名前!」



何故か背負われた。



「さっさとしろお前ら!」


「「……はい」」



そんでもって諏訪さんに怒られた。





場所は変わって、ここは諏訪隊ご贔屓のラーメン屋。
いかにも老舗といった雰囲気を醸し出すお店である。

ここに来るのは一週間に1、2回と結構な頻度なのでお店の人ともかれこれ1年以上の付き合いになる。
諏訪さんと堤さんはもっと長いらしい。



「あれ名前ちゃん、今日はやけに大人しいじゃねえか」



店内から見える厨房で私に声を掛けてくれた店長さん。
疲れていても私の身体は正直らしく、お腹がなる。


「今日の任務はハードル高かったから疲れ果ててるんすよ」

「おいおいおいおい、女の子がぶっ倒れるまで働いてるのにお前ら男共はピンピンしててどうすんだ!」


堤さんの言葉に、店長さんはお玉を諏訪さん達に向けた。
目を逸らし苦笑いする諏訪さん達を見つめる店長さんの口調は厳しいけれど、視線はとっても優しげで。
やっぱりここのお店は温かいと改めて思った。


「大丈夫かい名前ちゃん?今日は俺が名前ちゃんの好きなもんを腕によりをかけて作ってやんぜ!」

「じゃあチャーハン食べたいです!」


諏訪さんの背中から身を乗り出し手を上げてそう言えば堤さんに頭を叩かれた。


「流石にその状態でいきなりチャーハンはキツイだろ。すいませんおやっさん、お粥か何か下さい」

「む、ちゃんと食べれますよ!」

「んなこと言って気持ち悪くなったことがあるだろーが」


諏訪さんと堤さんに言い負かされ結局はお粥を食べることに。
横で笑ってる日佐人いつか泣かす。
店長さんは「あいよ」と笑って厨房に戻っていった。


「何でラーメン屋なのにいっつもチャーハン頼むんだよ」

「ほんとはレタスチャーハンのが好きだよ」

「いやそうじゃなくて」


いつも通りの座敷の席に座り、店長さんに作ってもらったお粥をちびちび食べる。
嬉しいことに溶き卵入りのお粥だ。


「好みは人それぞれだからいいんだよ」

「そーだそーだ」

「諏訪さん今日車運転してましたよね!?」

「もうお酒飲んでる!」


私の横で醤油ラーメンを食べる日佐人と一緒に前に座る諏訪さんを見れば、その手にはビールが。
お店に入るなりいきなり飲みだすとは思ってもいなかったので思わず日佐人とツッコミをいれてしまえば笑う堤さん。


「帰りは俺が送っていくからいいよ」

「あざす!」

「お願いしまーす」


堤さんは今日はどうやら飲んでいないらしく(というかどっちも飲んでたら運転出来る人がいない)帰りは堤さんが送っていってくれるらしい。


私にとってボーダーに居る時に一番幸せだと思える時間は、この人達といる時だと思う。

迅さんが風刃を引き換えにしてまで近界民の子をボーダーに入れようとした理由が何なのかは分からない。

だけど。


(その子がボーダーに居て少しでも楽しいと思えますように)




 
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