ワールドトリガー

□『信用』は信じて用いること、『信頼』は信じて頼ること。
1ページ/2ページ




歌川君と廊下で分かれてから、私は諏訪さん達が監視している訓練室とは別の訓練室へ向かっていた。
ちなみにこれは上からではなく諏訪さんからの指示である。

不思議に思ったが、諏訪隊のみんなの前でS級扱いされるよりはいいと思ったので大人しく従っておいた。


(ここか)


私の目の前には大きな扉。
10フロア全てをぶち抜いて作られた、基地の中で一番広い部屋。
奥行は360メートルあるだとか。

私は銃手だったし諏訪隊の人で狙撃手は居なかったからこの部屋に入るのは初めてだ。
これは私個人の感覚だが、ここの周りの雰囲気はどこか物静かで居心地が悪い。

狙撃手と言えば真っ先に出てくるのは東さん。
その次に荒船隊で、あとはA級の古寺や古寺の先輩の奈良坂先輩。

私が思い出せるメンバーだけでも、大体落ち着いていて冷静な人ばかり。
もしかしたら狙撃手はそういった人が多いのかもしれないな、そんなどうでもいいことを考えながら扉に手を近づける。

どんな訓練をしているんだろう。


 ウィン



「うおっと!女の子を見逃すとは!マジでゴメン!8人ね!」

「………」



格好良い訓練を夢描いていた私の希望を打ち砕いたのは嵐山隊の佐鳥だった。



(私の希望返せ)

「…苗字か?」

「荒船さん。すみません部屋間違えました」

「待て待て待て。狙撃手の訓練場はここで合ってる」



ツバ付きの帽子を被っている荒船さんに肩を掴まれ大きくため息をついた。
これで今日の私のやる気の大半が削られた気がする。

最初は不思議そうな顔(ポーカーフェイスで分からないけど首をかしげる動作で何となく)をした荒船さんだったが、私の視線の先を見た途端「ああ…」と小さく呟いた。



「佐鳥か」

「佐鳥です」



そういや嵐山隊が入隊指導してることを忘れてた。
時枝君は私と同じ銃手だった、狙撃手は佐鳥しかいないんだっけ。

遠い目をしながら荒船さんと一緒に佐鳥を見る。



「ってあれ、苗字さん?なんでここにいんの?てか何で俺そんな目で見られてるの!?」



「荒船さんまで…酷い!」ときゃんきゃん吠えている佐鳥に、隣に居る荒船さんが大きくため息を吐いたのが分かった。



「私のことはいいから先に説明しちゃいなよ。訓練生困ってる」

「あ、そうだった!訓練生の諸君!この人のことはまた後で説明するから!」



私がそう言えば慌てて訓練生の所に走って行く。
声が大きいし落ち着き無いし、全くもってあいつは他の狙撃手の人達とは違う気がしてならない。


「そういや何で苗字はこっちに来たんだ?普通だったら銃手の方だろ」

「うーん…そこは私も分からないんです。諏訪さんがこっちに行けって言ったもんでこっちに来たんですけど」

「諏訪が?…あぁそういうことか」


何故かその言葉に一人で納得し私にその理由を教えてくれることのなかった荒船さん。
どことなく風間さんと雰囲気が似てるなーと思ったが、よくよく考えてみれば私の感覚的に、荒船さんが風間さんに似ているんじゃなくて風間さんが荒船さんに似ているんだ。

A級に上がってから風間さんと初めて話したから、風間さんよりも付き合いの長い荒船さんに風間さんが似ていると思うのも当たり前か。



「苗字、佐鳥の話が終わったみたいだぞ」

「本当ですねー…やっぱり私行かなきゃ駄目ですか」

「当たり前だ」


「苗字さーんこっち来てー!」


「ほら呼んでるぞ」



荒船さんに思い切り背中を押されてつんのめった。
…ほんとにこういったのは得意じゃないからやめて欲しいんだけど。



「さっき紹介出来なかったのがこの人。苗字名前さん」

「…初めまして、訓練生の皆さん」

「ランクの話はさっき話したよね。この人は俺と同い年でS級なのだ!」



何で私じゃなくて佐鳥の方がドヤ顔してるんだろう。

彼の言葉に私は顔を顰めたが当の本人は気がついていないようで。
騒がしくなった訓練生に苦笑しか浮かばない。


(…?)


男ばかりの訓練生の中に、女の子が二人。
その内の一人、小さい方の女の子と目が合ってしまった。


「…!」


私と目が合うなり大げさに肩を揺らしてくれたので私のライフがちょっと減った。
こんな小さな子が志願するだなんて。


(あれは迅さんと同じエンブレム?)


その小さな女の子の肩には、本部のものではなく玉狛支部のエンブレムが付けられていたのに気づく。


(もしかしてあの子も迅さんの『後輩』にあたるのだろうか)






  
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ