ワールドトリガー
□君が可愛いということ
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山部様リクエスト
「連載番外編で迅さんの片思いのきっかけの話」
Zin side
俺が初めて彼女に持った印象。
それは『真面目な子』。
本部でたまたま諏訪さんを見つけて話しかけてみた時に紹介されたのがきっかけ。
初めて会った俺に対して、ご丁寧に頭下げて挨拶してきて。
S級って知った瞬間に身構えられたのは笑ったな。
諏訪さんに凄く可愛がられていて、諏訪さんロリコン疑惑なんかが上がったりして。
でもこの時は諏訪隊の新入りとしか思っていなかったのは確かだ。
次に持った印象は『お堅い子』。
根付さんとよく一緒に居る所を目撃してから少し話すようになった。
根付さんの養子、ということを知ったのと、根付さん自身から何かと気にかけてやってくれって言われてたから。
廊下で会った時に何気ない話をしたりぼんち揚げあげたりからかったりぼんち揚げあげたり。
ちなみにぼんち揚げを受け取ってもらえた経験はあんまりない。
いまどきの子にしてはおしゃれとかにも興味なさそうで恋愛に対しては苦手意識を持ってたもんだから、将来この子を好きになった奴は苦労するだろうなーとかそんなんで友達と話しできるのかなーなんて下世話なことを考えてた。
でも、礼儀も性格もしっかりしてて、少し純粋な所がある彼女は幸せな恋が出来るんだろうって思ってたし今もそれは変わらない。
誠実で真面目な男の人と一緒になって、添い遂げるだなんて絵に描いたような幸せな未来が、俺の脳裏を薄っすらとよぎっていたし。
だから、こんな俺が、彼女の未来に居るだなんて想像も付かなかった。
いつからだろう、彼女を好きになったのは。
自分でも彼女を好きになった時期をイマイチ覚えてはいない。
強いて言うなら、俺が彼女の任務の手助けをした時なんだと思う。
好きになった時期もイマイチ覚えていなければ、好きになったきっかけも覚えていない。
ただ覚えているのは、彼女の真っ直ぐ過ぎる目。
キラキラ光ってて刀みたいに鋭くてまっすぐな。
でも清らかってわけじゃない、どこか不安げな雰囲気を持ち合わせている目。
それは俺にはないもので眩しいなぁ、とかこんな性格じゃ友達付き合い大変なんじゃないかないかなぁとどうでもいいことを考えていた。
だが、俺の鼓動は今まで感じた中でもトップクラスの上昇記録を叩きだした。
顔が熱くなるのが分かる。
気温が高くて暑いというわけじゃなかった、冬だったし。
頭は上手く回らないし彼女を上手くかわせるような言葉も口から出てこない、
ついでに身体も自分の思い通りに動いてはくれない。
(ああこれって)
恋ってやつなのかな?
小南が読んでた少女漫画のヒロインみたいな感覚が俺の身体を駆け巡る。
そう感じてしまえば後は落ちていくだけ。
今まで後輩として感じていた友好の「好き」は一瞬にして恋愛感情での「好き」変わる。
そう、LikeからLoveに変わったのだ。
(…でもこれって、少女漫画じゃ逆の立場じゃないのか?)
そんなことを考えてみたが、そういえば彼女はとても男前な女の子だった。
これが、曖昧ながら、俺が彼女に恋したきっかけだ。
「見つけた…!」
「あ。名前ちゃん、やっほー」
「あ、じゃありません!任務開始5分前ですよ、何してるんですか、お得意のサイドエフェクトはどうしたんですか」
俺を見つけて走って来たと思えば、矢継ぎ早に説教を始める名前ちゃんに頬がゆるむ。
きっと今の俺は、とってもだらしない顔をしているんだろう。
「何へらへら笑ってるんですか、全くもう…」
少し困ったように眉を下げて溜め息を吐く顔が好き。
怒ってイライラした顔も好き。
でも何よりも好きな顔は、安心したようにへにゃりと笑った顔。
(でもその顔を俺は一度も向けられたことなんてない)
名前ちゃんのその表情をもらえるのは根付さんと諏訪隊のメンバーだけ。
(…俺にもいつか向けてくれないかな)
名前ちゃんに恋してからというもの、俺は極力彼女の未来を視ようとはしていなかった。
ただ臆病なだけで見たくなかっただけなのかもしれない。
でも。
少しでも勝算があって欲しいと願うから。
俺の想像通りに、誠実な男と結ばれないように。
君の隣が俺のものでありますように。
頑張るから。
「迅さん大丈夫ですか?」
「あぁ…うん…だいじょうぶ………」
「動けないようなら背負いますよ」
「お願いだからそれだけはやめて…!」
ちなみにその数十分後に任務でヘマした俺は、大型トリオン兵の腹の中から彼女に助けられた。
…情けなさ過ぎる。