クラエア

□Wish not realized
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ヒラヒラ



ヒラヒラ







薄いピンク色の花びらがヒラヒラとゆっくり舞う。
それはピンク色をした雪が降っているようで、とても幻想的だった。


その中をまたまたピンク色の人物がたたずむ。


目を奪われたのは、たくさんのピンクをつけた木でもなければ、ピンクの雪のような花びらでもなく、それらに見とれている"ピンク"にだった。
















「桜の木の下には、死体が埋められてるって話、知ってる?」


そっと隣に立った俺に、ウータイにしか生えないという桜の木の光景に見とれながらエアリスは話し掛けてきた。



「……知らないな」


肩をすくめてそう言ってやると、エアリスは嬉しそうにこちらを向いた。

きっと、エアリス自身世界のことを人より極端に知らないと分かっているから、自分が知っていて俺が知らないことが嬉しかったのだろう。

その目はキラキラと輝いていた。


「あのね、桜の木はその死体の養分を吸い取って、キレイな花を咲かせるんだって」


「……ふうん」


「あっ!興味、なさそう!」

「まあな」


ヒドイと言いながら頬を膨らませる姿は、先ほどの神秘的な雰囲気を一転させるほど、無邪気で可愛らしかった。


「吸い取られるのは恐ろしいけど、素敵だと思わない?
死んでもなお、人を喜ばせることができるなんて。
こんなにも人の目を奪って感動させることができるなんて」




死して桜の木に吸い取られキレイな花を咲かせ、生きた人を喜ばせる。


果たしてそれは素敵と言えることなのか。

人を喜ばせて得になるのか?
体が朽ちてからも吸い取られるなんて……素敵も何も、そんなこと俺は御免だ。



興味ないはずだったのに、いつの間にか考え込んでいる自分がいて思わず苦笑した。






「ね、クラウド」

「なんだ?」


「私が死んだら、桜の木の下に埋めてあげて、ね?」


エアリスは笑いながら言ったが、俺は何も言えなかった。


どこに埋めるか埋めないかとか、それが素敵か素敵じゃないのかなんてどうでもいい。
それよりも、エアリスが"死ぬ"なんて考えたくもなければ、聞きたくもなかったから。














でも


















彼女は死んだ。

























ふいにウータイで見た桜の花びらが舞う景色が脳裏に浮かぶ。
エアリスはあの花びらのように綺麗に、そして儚げに散っていった。


…―死んだら桜の木の下にうめてあげて、ね?―……


美しく幻想的な世界のなかで消え入りそうに言った言葉。
考えたくも聞きたくもなければ、ありえないと思っていた言葉が甦る。




悪いけどアンタの願い、叶えてやれそうにない。

桜の木になんか吸い取られてたまるか。
それに黙って吸い取られてるような女でもない。





だから、水の中に閉じ込めた。




エアリスには水の中が似合う。

人間も動物も草木も、そして大地さえも水がなければ生きていけない。

俺がエアリスがいなければ生きていけないように…。



願いを叶えてあげられなかったこと
閉じ込めてしまったこと

彼女は怒っているだろうか?




(もう!桜の木の下に埋めてって、言ったのに!

でも、水のなかも悪くはない、かな?)



「…ふっ」


そう言ってくれるような気がして、彼女の笑顔が浮かんで、自然と笑みが込み上げた。






アンタの願いは叶えてやれなかったけど

水の中に閉じ込めてしまったけど








笑って…許してくれ。




それが、アンタの願いを叶えてやれなかった、俺の願い。



END
2009.4.26


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