short#2
□君の指が触れたのは
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楽器を弾く男の人の顔が好きだった。
一番素が出ているときだと思う。
ピアノでもギターでも。
伏し目がちになる、まさにそのフォルムが私の心を掻き乱すんだ。
ピアノを弾くのが好きなんだ、と言う彼。
彼がピアノを引けばアタシはその横顔に見惚れるものだった。
同時に私は酷くその伏し目に嫉妬した。
今まで彼は、何人の女にこうやってピアノで語ったのだろうか。
私は彼の過去までは独占できない。
だから怖いくらい妬いていた。
嗚呼、病気みたいだ。
君が鍵盤に触れる度、
楽譜を見つめる度、
言い様のない感情がアタシを支配し、弄ぶ。
『どうしたの?』
『…なんでもない。』
崩壊してしまう前に、優しい音色でアタシを癒して。
こんな醜いアタシを。
こんな嫉妬深いアタシを。
君の指が触れたのは、
優しくて、それでいて時に残酷な旋律。