short#2
□世界で一番大嫌い
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私は父の顔を知らない。
写真ですら見たことがない。
この事実から解るのは、私の母と父は然程仲良くなかったということのみである。
写真すら、ないのだから。
世界で一番
大嫌い
私は母に女手一つで育てられた。
兄弟姉妹もいなかったので、家族と呼べるのは母親だけであった。
母の常識は私の常識。
家の外での出来事を教えてくれるのは母しかいなかったのだからそうなるのも当然のこと。
私は大分母に毒されていたし、依存していた。
とにかく、経済面ではとても苦しい思いをした。
三十路をとうに過ぎたバツイチのくたびれた女性を雇ってくれる所はなく、母はパートで何とか食いつないだ。
が、それではやはり不十分だった。
せめてもの救いは、私に兄弟姉妹がいなかったことであろう。
食べ盛りのティーンがもう一人でもいたら、きっと私たちは生活していけなかった。
母はとにかく切り詰めた。
ギリギリまで切り詰めた。
金銭感覚というのは、金がありすぎても狂うものだが、逆になさすぎても狂うものだ。
母はここで『節約』と『ケチ』の意味を間違ってとってしまったのだと思う。