籠越しから見る空

□籠越しから見る空 2
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まだ休んでいろとベッドに寝かされたまま、上半身だけ起こして約束していた通りに
まずは私の名前以外の自己紹介を兼ねて向こうの話をしていた時だった。


「「17!?」」


2人の驚く声が部屋に響く。
夢かと自分の頬を抓りながら目を瞬かせるレディ。
嘘だろ?とこちらを疑る眼差しを向けるネロ。
その二人の反応にそうだよなと同意し頻りに頷くダンテ。


「…おかしいですか…?」
「「「おかしいに決まってる(でしょ)。」」」


まぁ、確かに…。
普通こういうところの17歳というのは、もう少し顔立ちが大人っぽくて…というか全体的に大人っぽいはず。
別に自分が特別童顔と言う訳じゃないが、日本では平均的な身長も
ここでは低いということも相まってどうしてもそう見えてしまうのだろう。


「末恐ろしいわー、そうよね日本人って歳とってもあんまりそう見えない人多いもの。」
「こっちの子と比べたら13でも十分通るだろうな。坊やと数カ月違いには見えない。」
「おっさん、それ言い過ぎだろ。」


ネロもダンテの言ったことは思ったが、
その言葉に傷ついたのかがっくりと項垂れる逢夏の前ではそれを諌めるに止まった。
気を取り直してとレディとネロが自己紹介の内容の話を確認し始める。


「高校生なのね。」
「はい。」
「で、来年大学生…。本当に今年で18か?」
「本当です。」
「家族構成は4人でお父さんとお母さんは両方教師…かぁ。堅苦しそうね。」
「そんなことはないですよ?」
「それで妹がいて、あんたが姉。…あんたがこんなんだったら妹はどんなだよ…。」
「どんなってどういう意味ですか。」


そうネロが聞き逢夏が答えた時だった、忘れるなというように楽しげに話し始めるダンテ。
向こうにいた時の話を一番詳しく知っているのはダンテさんだ。
買い物に二人が出かけている際、留守番として残された彼はこの部屋にやってきて色々と質問をしていった。
だからもう一匹の家族のこともよく知ってる。


「ペットに猫がいるんだろ?『ネロ』って名前の猫。」


それに興味を持ったのか目を輝かせるレディ。
からかう材料が増えたとその話題に食い付き、肘でネロを小突く。


「あら、いっしょの名前じゃない。猫のネロ君はこっちのネロと違って可愛げがあるのかしら?」
「あんたな…。」
「それがさ、生意気で不遜な態度が似合う猫だったんだと。そっくりだろ?」
「おっさんまで…なんでここにいんのはこんなに大人げないんだ?」


やってられないと呆れ顔のネロににやにやと視線を送るダンテとレディ。


そんな3人を見ながら、私は先の会話や今の会話で自分のいた場所の説明をしていて分かった事について考えていた。

ここの『世界』の日本に帰っても、そこに自分の居場所はないということ。
歴史、世界に広がる技術が全く違う。
なにより…『悪魔』なんて生き物など想像上の物だった私の居た世界、実際にそれがいる時点でこの世界は違う。
そのことについて話すと


「パラレルワールドってことか。だから今まで逢夏が悪魔に狙われることがなかったんだな。」
「それでもこういう体質は存在してて、この世界から悪魔を呼び寄せちゃったってことかしら。」


複雑そうにそこから推測できることを話すダンテとレディ。
小さくそれに頷く。
二人きりで留守番をしていた際に簡単に『贄』の説明を受けた。
聞いたのはたくさん悪魔を呼びよせてしまう事とやはり私の血や涙には悪魔の力を増幅させる作用があると言う事。
突然に現れる体質の為に自分自身でも気付けないと言う事。


私は運がよかったのだ。
私がそうなのだから、このように他の世界で連れ去られた人々は少なからずいるはず。
きっと助けて貰えなかった人達もいる。
そんな中、私は助けてもらって、しかも『守る』と約束された。
運がよすぎる様な気がする。
その運は嬉しいが、ただ…いつになったら私は帰れるのだろう。
それが重く重くのしかかる。


「違う世界か…帰る方法なんて見当もつかないな。」
「しかも来る方法を知ってる悪魔を断たなきゃまた連れ戻されることになるわ。」


帰る事だけが問題じゃない。
刻印の主を見つけないといけないのだから。
最初は私を囮に誘い出すという方法が考えられていたらしいのだが、
私の体質上それは止めた方がいいと言う結果になり、地道に探すことになった。


「なぁ、そんな話するの止めようぜ。今考えてても仕方ないだろ。」


目の前に立ちはだかる二つの壁に落ち込む逢夏の肩を軽く叩きつつ、他の話とネロは促す。


「…他の話?」
「なんかないのか?興味があるんだよな、悪魔のいない世界ってどんなか。」
「悪魔のいない世界に興味…」
「あぁ。悪魔っていう脅威がないんなら他に何かあるのかとか…それともそういうモノすらなくて平和なのかとか。」


平和な世界…。確かにそんな場所だったかもしれないけれど、それは身の周りのごく一部な気がするし、
何より『普通』の世界としか思っていなくて、特にそんなことを考えたことがなかった


「やっぱ難しいか。」
「はい…ごめんなさい。」


せっかく話題を逸らそうとしてくれたのに、何も話ができなかった。
自分は一体何しているんだろう…。
そう思っていたところにガシガシと頭をかいて困った表情を浮かべたネロがもう一回話しかけてくる。


「あのさ、あんまり落ち込んでばっかりになんなよ。どうすればいいか…こっちも困る。」
「そうですよね。ごめんなさ…」
「謝るのももういい。それに俺達に敬語はいらないし、『さん』付けもしなくてもいい。」


向けられるネロの目と声に、何故か反論する気を失う。
…彼と話したのはまだ数えるほどしかないのに、彼の放つ言葉には『絶対』の響きを感じていた。


「わかり……分かった。」


そういっていると今度はレディに両頬を抓られる。


「そうそう、そんな感じ。
 この世で一番自分が可哀想なんだって、そう思って私たちを頼って、全部任せればいいの。」


ぎゅーっと横に引っ張られて上手く喋れなくなる。


「ふ、ふひゅうひょんなことおみょうひゃっていわにゃい?!」
「何言ってるの?」
「へひぃひのしぇい!」


ばたばたと暴れているとようやく抓っていた手を離された。
はい、もう一度と先に言った言葉を促される。


「普通!自分が可哀想だとかそんなこと思うなって言わない?それに上手く喋れなかったのはレディの所為!」
「あら、それはごめんなさいね。でも…それって思っちゃいけないこと?」
「へ?」
「いいじゃない思ったって。はっきり言わせてもらうけど、今の貴女、本当に運がなくて可哀想な子よ?」


我慢なんてしなくていいの。
そう思っていいじゃない。
そこからどうするのか。
悲しみに暮れて、ただ悪魔のいい様になっていく自分を見ていくのか。
それとも必死に抗って、可哀想な自分を止めようとするのか。
それが一番大事でしょう?


と言ったレディの言葉が、何故か胸に刺さった。
勇気が貰えて胸が温かくなるようなそんな感じになった。
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