籠越しから見る空
□籠越しから見る空 3
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もう出ることが出来ないと思っていた外は、不思議と綺麗に見えた。
遠くに思えた空はとても近く、部屋から見えなかった太陽があって、1日ぶりのその光に目が眩みそうになる。
「大丈夫?」
あまりの眩しさに目を細めて顔を伏せようとするとレディにそう尋ねられたので一つ頭を振って大丈夫とアピール。
外出することは許されたものの、それにあたって守るべき事がいくつか課せられた。
1つ、刻印を外気に触れないようにすること。
2つ、声を出さないこと。
3つ、1人で行動しないこと。最低限4人のうち2人と行動を共にすること。
4つ、怪我をした状態で外に出ないこと。
大きくはこの4つ。
私の行動、心身の状態の全てが悪魔を集めることに繋がる為にこれらの厳守が求められた。
自由のない外出の様であるけれど私はこれで満足。
『出れないだけで自由』よりも『出れるけど不自由』の方がいい。
無理難題を突き付けられているわけでもなく、これを守る自身の苦労よりも私を守る側の4人の負担の方が何倍も大きい。
それにも関わらず私を外出させてくれた彼らには感謝してもしたりないぐらいだった。
『本当にいいの?』
と手のひらに指で字を書き、ネロに聞いてみるとお前が気にすることじゃないと文字を書いたその左手を頭に置かれた。
彼は極力右手で私に触れないようにする。
どうしても気になり聞いてみると、薄手の皮で出来た黒いグローブに全て包まれた右腕を軽く触りながら内緒と言われた。
その顔はとても複雑そうなもので…きっと聞いてはいけないことだったのだと今は後悔してる。
私は部外者なのに、無遠慮に深い場所に足を踏み込もうとしてしまった。
それでもネロは気にするなというだけで優しいその態度を変えることは無く
それが余計に気を使わせてしまったと苦しくなる。
せっかくの外出なのだからと元気を出して行こうと思っていたのに…。
そんな理由で落ち込んでいた逢夏を見てダンテが口を開いた。
「喋れないって不便だろ?
何かしてやれればいいんだが…こればっかりはな。」
それが理由ではないのですぐ首を横に振るとダンテの手を取り、文を書く。
「…そうか、逢夏は随分前向きだな。ただ、俺ならこんなのはごめんだ。」
そのダンテの言葉にネロが気になったのか近寄ってくる。
「逢夏、なんて言ったんだ?」
「喋っちゃいけないゲームだと。あちこち動きながらするかくれんぼみたいで気にしてないってさ。」
「ふーん。」
『ゲーム』という言葉が引っ掛かるのか、眉を軽くひそめるネロを見てもう一度ダンテに伝える。
『人生前向きに、どんな状況でも楽しまなきゃ損だよね。』
こんな状況でそんなことが言えるのは、きっと逢夏に今必要な本当の強さがあるからだろうとダンテはふと思った。
「お前、本当にいい奴だなー。」
とダンテが逢夏を撫でているとネロは一層険しい顔になる。
あんまりぐしゃぐしゃすんなとその手を叩くと何を言ったんだとネロはこちらに手を差し出す。
いきなり顔を綻ばしたダンテが気になったのかレディは声に出してお願いねとネロに頼む。
もう一度書かれたその言葉を聞いて、
自身の境遇を一向に憐れまない彼女に嬉しく思うとともに一抹の不安を覚えたのはトリッシュ。
『贄』の行く末をこの中で一番に知るトリッシュには、これからもそれが続くとは思えず…
それがたち消えてしまった時彼女は自分をどう支えるのだろうとそれだけが心配だった。
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『外でこの4人と一緒だと落ち着けない。』
これがここで初めての外出の感想。
それはそうだ、4人全員モデルみたいだし…。
私のいた世界の日本でもし歩いてたら携帯とかデジカメで撮られる事間違えなし、
横を通りすがって『で?なに?』と片付けられる人がいるなら見てみたい。
そんな4人の中、私はどれだけ浮いているのだろうかとても気になりながら
4人の影に隠れる様に歩いているとレディが少し心配そうな顔でずっとこちらを見ていた。
着いたカフェテリアでも同様。
あぁ、そこの綺麗なお姉さん。
『なんであんな子がそこにいるの?』って丸分かりのその視線がとっても辛いです。
本当に嬉しいけれど、4人の誰かに話しかけられるたびに
「こういうのを公開処刑っていうんだ」と心の中で思いつつ精一杯の笑顔で対応していると
内心かいていた冷や汗に気づいたかのようにネロは私の目を覗き込んできた。
「なぁ、逢夏。さっきから変だぞ?」
『変って何が…かな?』
「そこまではわかんねーけど…。なんか無理してるのか?」
『全然!全然だよ!』
ぶんぶんと頭を振ってあまりにも怪しい逢夏。
何を隠しているのだろうと聞きたかったが今ここで問い詰めても仕方ないと思う……もののやっぱり気になる。
とそこでふと目があったダンテも止めておけと首を小さく振っていた。
釈然としないながらもそれに従っておく事にする。
せっかくの外出なのに変な気をこれ以上使わせるのは可哀想な気がするから。