籠越しから見る空

□籠越しから見る空 7
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目の前に笑顔がとっても素敵で眩しい女神さまが現れました。
そんなときはまずはどうするべき?
女神さまに捧げる祝詞の一つでも言うべき?
いやいや、この人は女神さまだけど普通の人間、いきなり畏まって話されても困るよね!
どうしよう!!!

と悩んでいると


「初めまして、貴女が逢夏さん?」
「ひゃい!?そうです!初めまして!」


私の名前を呼んだのは綺麗な声。
本当に女神さまじゃないだろうかと思いながら、変な返事をしてしまったのが恥ずかしくて頬が熱くなる。

顔赤くなってないよね、でももう挙動不審過ぎて変な人だって思われてるよねーー?!


あわわわ、と心の中で慌てる私にどうしたの?と首を傾げるのはキリエさん。
前にネロが言っていた『お姉さん』のような存在の人…らしいけど。
絶対に嘘だ。
ネロは絶対にキリエさんの事が好きだと思う。
だってこんなに綺麗で優しそうで、でも儚そうに見えるのに
どこか強い部分をもっていそうな素敵な人が身近にいて好きじゃないとか絶対におかしい!

ひっどいことなのは分かってるけど敢えて言わせてもらう。

この人が好きな人じゃないって言ったら…

私、ネロの神経疑っちゃうよ。


そんなことを思うほどに私がこんなにも混乱しているのはつい数日前の電話から。


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「坊や、電話だ。」
「俺?」
「そう、『彼女』からー。」


彼女なんかいない!とダンテに怒鳴りながら出た電話の向こうから聞こえた声に
ネロは目に見えて驚きはしなかったものの、その瞳孔を見て驚いていることが分かる。

『彼女』?

そういえば一度彼女がいるいないの話をした時にそんな感じの人がいるとは気付いてた。

もしかしてその人から?!

気になる逢夏は隣で寛ぐダンテの服を小さく引っ張る。


「ダンテ、ネロの彼女って?」
「ん?坊やが前住んでた所で今も住んでる子のことだ。」
「じゃあ、幼馴染ってこと?」
「まぁそれもあるだろうがあの時はそれだけには見えなかったなぁ。」


絶対にネロはあのお嬢ちゃんの事が好きだぞ。と楽しそうに呟くダンテの頭に飛んできた雑誌が当たる。


「憶測でいうな!言ったろ、キリエは家族みたいなもんで………わりぃ。」


キリエという女性に何かを言われたのか電話の方に集中するネロ、
電話もしながらこっちの会話を聞くなんて器用だなー。なんて思いながらとりあえずダンテの頭を撫でて、話の続きを促す。


「どういう電話なのか気になるか?」
「すっごく気になる。だってネロの好きな人知りたいし!」


どんな人ー?と聞いてみると
歌が上手かった。
可愛らしくあったし、綺麗でもあったし。
非の付けどころが無い清純な子だったとダンテに珍しく褒め言葉が大量に出てきた。


「すごい、すごい!さすがネロの好きな人!」
「だから、…違う。」


いつの間にか電話を切ったネロが後ろにいた。
じとーっと私を見る目は据わっていて、確実に怒っていること間違いなしな様子。


「そ…そんなに怒らないでよ。」
「怒らせてんのは逢夏とおっさんだろ。何度違うって言えばいいんだよ。」
「いいでしょ?
 だって顔に好きって書いてあるし、そうやって慌てる時点で怪しいよ…ねぇ、ダンテ。」
「そうだなー。好きでもないのに慌てる必要が何処にある?」


ああ言えばこう言うといつ終わるかも分からない言葉の応酬を繰り返していれば、
いい加減止めてあげなさいとトリッシュと話していたレディが止めた。
珍しい。とネロがレディに少し感謝する様な眼で見たが。


「ネロをからかうのは私の専売特許なの。奪わないでくれる?」
「あ、そっか。ごめんね、レディ。」
「いつあんたの専売特許になったんだよ!?」
「…貴方がここに来た時からかしら?」


それに顔を引き攣らせるネロ、それでもダンテは何事もない様に話を変えた。


「で、何だったんだ?帰ってこいとか言われたか。」
「あ…いや…。」


一変して困った顔を浮かべ、少しの間言いだしにくそうに視線を空へとやっていたがようやく電話の内容を口にする。


「3日間…ここで世話になりたいって。」
「は?」
「それがさ…。」


ネロのいた場所は排他的な所だったらしく、そういう街全体の体質を改善しようと小旅行に出る人が最近多いのだとか。
当然、街の人々が一斉に旅行。というわけにはいかないので行くにも順番があって、今回キリエさんにその順番が回ってきたと。

せっかくの出かけられる機会、許可が出るならここに来たいとの連絡。
それに腕を組み、ダンテは少し考える仕草をとる。


「俺は別に構わないが…。
 逢夏の事があるからな、坊や一人であの嬢ちゃんの安全は確保しないといけなくなる。
 しかも逢夏の方…分かってるよな?」
「あぁ、分かってる。」
「ならいい。」


許可が降りた事にほっとしたようなネロはこの旨を伝える為にもう一度受話器を持って電話をかけ始めた。

浮かべられたいつもとは違う、何かに安堵して懐かしむ様な柔らかな表情。
それに久しぶりに初めて感じたものと同じあの胸の痛みがはしった。
いいことなのに、ネロにとって大切な人に会えるとてもいいことなのに…素直に喜べない。
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