籠越しから見る空

□籠越しから見る空 10
1ページ/7ページ

カタカタと続いていたミシンの音が途切れ、次に上がるのは

「できたー!」

という大きな声。
ばさっと広げるそれは長く日を費やし完成させた物。
あちこちと出来を見て、特に問題が無さそうな事に安心して長々と時間をかけて大きく背伸びをしていたが、
伸びのついでに首だけ動かして時計を見ると期限の時間は迫っていた。

本当は本人に合わせて最終確認もあるのに…。
ようやく焦り始めた逢夏は
それをしわにならないようにとハンガーでクローゼットの前に引っ掛けると一気に階段を駆け降りる。
…駆け降りた先、一番先に目に入った人物。
一番先に話しかけようと思った人物は…ソファで暑さにだれていた。

「ネロ…大丈夫?」
「大…丈夫、じゃない。」

普段なら張りそうな虚勢もそれどころではないほどにネロは暑さに弱いらしい。
そんなネロに更に圧力をかける様に、最近になって暑さを増したと思われた事務所周辺の地域。
しかしダンテから言わせると

「こんなものまだ序の口、もっと暑くなる。」

とのこと。
既にその暑さを体験済みのネロはそれが十分分かっているようで、もう何処にでも逃げたそうにしていた。

「この時期だけは…どうしようもなく帰りたくなんだよなぁ…。」

涼しいらしい故郷が懐かしいのか、そう呟きうつ伏せになったまま動こうとしない。
協力を仰ぎたいあれもこの調子では面倒がられるだけと残念な逢夏は
少しでもやる気を出してもらおうとそんなネロを雑誌で扇いでいたところ。
丁度良くやってきたのは大きな袋を抱えるレディ、その後ろには一緒に出かけていたというトリッシュも一緒だった。

「ただいま、逢夏。…そこの、どうしたのかしら?」

トリッシュが指差し聞くのは既に突っ伏してピクリとも動かなくなったネロ。
溶けてるだけと逢夏が変な説明してもネロは小さく唸るだけ。
そんなちょっとした問答に興味を持たないレディは逢夏を見た。

「逢夏。期限は今日…って事にしてたんだけど、どう?」
「そうそう!間にあったよ!丁度できたの!」
「本当!?すごいじゃない!」

その瞬間覆われた視界。
むぎゅむぎゅと女としてはちょっと羨ましい感触に包まれつつ、軽くお腹を叩いているとようやく解放された。

「苦しいよ、レディ。」
「あら、ごめんね。でもそれだけ嬉しかったのよ。じゃあ、さっそくだけど見せてもらうわね。」

そう言ってレディは逢夏の部屋へと向かい、トリッシュも嬉しそうにそれについていく。
逢夏曰く溶けていたネロもそこで身を起こした。

気になっていた。
ずーーーっと気になっていた。
レディを筆頭にトリッシュも逢夏も教えてくれずにいた『とある何か』のこと。
いつも通りデスクに足をかけ雑誌を読みふけっていたダンテも気になるのか立ち上がりかけるほど蚊帳の外だった二人は気になっていた。

「俺達も見にいっていいのか?」
「もちろん!はやくはやく!」

許可が下り、先の二人を追いかけて逢夏の部屋にはいれば…
4着の色とりどりの不思議な服…の様なものがあちこちにかけられていた。
さっぱり見当もつかないそれらに首を傾げるしかないネロとダンテ。
ただネロにはこの色、柄に少し見覚えがあった。

逢夏がきてすぐの事。
今日の様にレディが大荷物で来た時の袋の中身にあった色だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ