籠越しから見る空

□籠越しから見る空 11
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音も立てずに目の前に着地した黒い…ライオンの様な姿の悪魔。
黒、悪魔には珍しくない色。
しかしその黒の鎖が立てる音は気を逆撫でし、酷くエコーがかかって耳に残った。

「散々俺の邪魔をしていたのはお前か。」

音がようやく耳から離れた頃に悪魔の口からは低く獰猛な声が漏れた。
その声には聞き覚えがあった。
『何時』も『何処で』も分からない、思いだせないが…確かに聞いた事はあった。

「そういうお前は…逢夏の、右腕の刻印の主か。」
「あぁ、そうだ。お前よりも早くにそれに目をつけ、それに刻印を刻んだ。
 …聞いておこう、それを俺に返すか…返さないか。どちらだ。」

わざと問い嗤う悪魔の目は告げる。
断ろうと、断るまいと…もう一つの刻印の主である俺を殺して逢夏を連れ去ると。

「逢夏は俺のもんじゃない…返すって言う権利は俺にはない。」
「なら、渡せ。今その手を離してこちらに渡せ。」
「いやだね。結末の分かりきったところに逢夏を渡せられるかよ。」

声に引き寄せられそちらに行こうともがく逢夏を腕の中に閉じ込めて悪魔を睨み返した。
渡さない。何があっても絶対に。
動きを止めない逢夏にもう一度命令とそうではない言葉を口にする。

「逢夏、絶対に行くな。…絶対に守るから。」

その途端、じっとして動かなくなる逢夏。
悪魔を映していた目はネロに映し変わった。
暗闇を見つめず、虚空を見つめず…、ありえない、違うと分かっていながらも。
信じているとその目が言っている様に見えた。

「守る?それを何から守ると言っているのだ?」
「そんな事もわかんねぇのか?お前から守る、そう言ってんだよ。」
「俺からそれを守る?そういう割にお前の行動は理解できぬ事が多い。奪われまいと守るなら何故何処ぞに閉じ込めておかない?
 外に出すという自由など贄には必要無いもので…」
「一度だけ忠告しとく、俺の前で逢夏を贄と…それと呼ぶな。」
「何を言ってる、それに贄以外の呼び…」
「呼ぶなって言ってんだろ!」

次言ってみろ。
元から逢夏にしてきたことを許す気、逢夏の為に逃がす気もない。
悪魔でも大凡及びつかない方法で消してやる。
誰からの眼にも明らかな殺意を込めて向けた銃口。
…それに向けられる視線が細い糸の様に震えた気がした。

ごめん、逢夏がこれを嫌ってるのはよく分かってる。
俺達が戦うという事に怯えて、怖がってるのは知ってる。
だけど…守る為にはどうしても必要なんだよ。

怯えも恐怖も今の逢夏にそんな感情を露わにする意識は無いはず。
それでも…見開かれた目に映る銃に恐怖するように見え、震え続ける視線が怖くて、その眼を手で覆った。

「すぐに終わらせる。だから…少し我慢な。」
「すぐに…随分余裕、いや自信過剰だな。贄の力も満足に使えないお前に俺を倒す事など出来るわけがないだろう?」

お前とは違う、俺には自由に使える贄の力がある。
そう嗤おうとした悪魔の首元を銃弾が掠る。

「お前を倒すのに…逢夏の手を借りる必要なんてない。
 …それよりな、逢夏を贄と呼ぶな……俺はそう言ったよなぁ!?」
「落ち着け、ネロ!」

素早くも徐ろに逢夏の体を地に預け、今にも悪魔に飛びかかろうとしていたネロを止めたのはダンテ。
いつの間にか多くいた悪魔を全て倒し切った3人はすぐ傍にいて、同じように悪魔を見据えていた。

「離せよ!あいつは!」
「お前はそこで逢夏を守ってろ!」

誰か傍に居なければ…どうなるのか。
ダンテが言いかけるとその言葉を継いで咆哮する黒鎖の悪魔。
それに応える様に再び大量の悪魔が現れた。

この様子だとあの黒鎖の悪魔は大量に悪魔を喚ぶ事が出来る。
倒せば喚ばれるの繰り返しでは切りがない。
喚ばれれば倒せばいい。確かにそうだ。
しかし…流石にこの量の悪魔を相手取る間にも何時悪魔のもとに歩み出すか分からない逢夏がいる。
下手に動く事が出来ない状況でそう考えていた時だった。

もう一つの咆哮が夜空に響く。
咆哮と共に何処からともなく現れたのは対峙していた悪魔の正反対の色をした同じような生き物。
周りにさざめく悪魔を一瞬で蹴散らすと黒鎖の視線から逢夏を守る様に立ちはだかった。
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