籠越しから見る空

□籠越しから見る空 13
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パタパタとひたすら暑い、溶けるとぶつぶつ言い続ける人物を扇いでいる時だった。

「ねぇ、逢夏。」
「何?」

嫌に優しい声のレディを不思議に思いながら次を待っていると肩に手を置かれ体ごと向き合わされる。

「海に行かない?」
「…うみ?」
「そう、海。」

にっこりと笑みを浮かべたレディ。
そんな笑顔を見つつ、話の要点を繰り返す。

うみ…海……海!?

ようやく状況が飲み込めた時にはすでに引き摺られて事務所を出たところだった。

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「暑い…。暑いーーー!」
「煩い!」

昨日の水鉄砲決戦の後から少なからず不機嫌が続くダンテはネロを一喝で黙らせた。
そこで不貞腐れるネロは昨日に引き続きラフな格好。同じく苛立つダンテも暑さを感じにくそうな格好なのだけれど…。
暑さが苦手な二人にはそれでも暑い。

「限界…。脱ぐ!」
「止めて!目のやり場所に困るでしょ!?」
「それは普通逢夏が脱いで、俺が言う言葉だろ!?」
「そんなことないよ!逆も十分あり得るの!!」

本気になって言い返す逢夏は俺やおっさんとは違って刻印の事もあって昨日に引き続き薄手の長袖パーカーを余儀なくされている状態。
それでも汗一つかかず、涼しげな顔をしていることに羨ましいやら感心するやらと複雑な感情を抱かずにいられない。

「絶対におかしいだろ。暑くないのか?」
「暑いよ?でも気温は高いけど、湿度が低いから平気。」

夏生まれ、きっとそれも手伝って暑さには強いのだろうと思いこんで、ということは冬または春生まれのネロは反対に暑さには弱いと言えるのだろうとまたこれも思いこんで。
少しでも涼しくなるようにとそこらへんにあった雑誌でパタパタとネロを扇いでいると、嬉しそうに表情を緩ませた。

「扇いであげるから。絶対に!脱いじゃダメだからね!」
「…分かった。」

脱ぐ脱がないのこの話。
ネロが言ったように…逆なら随分面白くなるんだが。
と呟くダンテを逢夏を思ってなのかトリッシュは手に持っていた受話器で叩く。
受け取った電話は昨日いきなり仕事を任せてきたレディからだった。

「暑くなる前に出かけよう。ったってな。今、十分に暑いんだが…。」
『つべこべ言ってないで出かける準備しときなさい。10分以内には着くからそれまでによ。』

ガシャン!と大きな音を立てて一方的に切られた受話器を置きつつ、ダンテは重い腰をあげて傍から見ればいい雰囲気?の二人の間に水を差す。

「坊や、逢夏。出かけるから準備しとけ。10分で済ませないとレディが怖いぞ。」

そう軽く"怖い"の部分を強調し、意趣晴らしをするダンテは先に出かける準備をしに自室に戻り
それから10分後、特に準備も無くソファに座り、扇ぐあの状況で待っていると、レディはやってきた。

それで話されたことがあれというわけ。
まだぼーっと意識が宙を飛んでいたところをいつの間にか事務所前に止めてあった車に押し込められた。
この様子からどうやら"行かない"という選択肢はもちろん無いらしい。
うーん?と悩んでいた所でレディは分かっていて『行きたくない?』と聞いてくる。

「行きたい!…でも海ってここから遠いんでしょ?」
「そうよ。だから皆で泊りがけ。」
「なんで海に行くの?」
「仕事。」
「…邪魔にならない?迷惑にならない?皆、仕事なのに…。」
「ならないわ。逢夏がいてくれれば絶対に仕事が捗るもの。」

…なんで仕事が捗るのかは分からないけれどついて来ていいと言われたのだから大人しくついて行くことに決定。
何より、遠出は向こうの世界でも稀だったからとても楽しみ。
それでもう少し聞いてみると今日は外泊の準備の為に買い物をするらしい。

目的の場所に着いて車から降りると助手席に座っていたネロは気だるそうにしていた。

「…どうしたの?」
「酔った。おっさんの運転、荒くないか?」
「そんな訳ないだろ。酔いやすい後部座席の逢夏はけろっとしてる。」

きっと酔ったのは暑いからと進行方向を見ずに項垂れていたからだと思う…。とは言えなかった。
言おうとしたところでレディに手を引かれてしまったから。

「逢夏はこっち。」
「え?バラバラで買い物なの?」
「えぇ。たくさん回る所があるし、女の子には女の子の買い物があるの。」

言った事の確認をトリッシュに取るレディ。
そこに気分の悪いネロはいつも通りにいらない事を…。

「『女の子』は一人だけだけどな。」
「…それくらい分かってるわよ。貴方ね…本当にその性格、いつか損するからね。」
「元から損するって知ってる。」

いらない忠告だと冷たく言ったネロは離れてしまうからこれからは一言も喋ってはいけないと逢夏に注意してダンテと買い物に行ってしまった。
その背を一瞥したレディはため息混じりにトリッシュに愚痴を言う。

「ほんっとうに可愛げのない奴。」
「逢夏の前だと、そうでもないのだけど。」
『そうかな…?でも、ネロはあれだからネロなんだよ。』
「まぁ…そうね。」

それよりもね、気になる事があるんだよ。

『ね、レディ。』

……女の子の買い物って…まさかだよね?

「なぁ、おっさん。」
「ん?」
「大丈夫なのか?離れて買い物とか…。」
「不安か?あの二人をもう少し信用しろ。
 それにな、離れて買い物したのはお前と逢夏の為だ。」
「俺と?」
「俺は別にいいんだぞ、ついて行っても。」

寧ろついて行きたいと物語る表情。
海に行って…女には女で必要なもの…?

「お前も大分鈍感だな。まぁ、楽しみにすればいいんじゃないか?」
「楽しみ?」

何で気付かなかったのかとそこに行ってから自分で自分を鈍感だと言わずにいられなかった。
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