籠越しから見る空

□籠越しから見る空 14
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以前なら月の鏡に喜んでいたかもしれない。
けれど今は…。
手繰り寄せた紙をベッドの上に広げて、書き辛いながらも読める字で月の感想を書く。

『やっぱり満月は…少し怖い。』
「なら見ないの。怖いって言う割にはよく見るんだから。」

でもその気持ちは分からなくもないけれど。と付け加えたレディは苦笑しながら
ベッドの上で膝を抱える私から可染の光が見えないようにほんの少しだけカーテンを閉めてくれた。

『ありがとう。』
「いいのよ。本当は全部閉めておいてあげたいんだけど…それだとちょっと都合が悪くなるの、ごめんなさいね。」
『ううん、もう平気だから気にしないで。それよりも!またたくさん話をしてくれるんだよね?』

ここに来て数カ月経つものの知らない事はまだまだ多い。という訳でいろんな話を聞かせてもらう事が満月の夜の過ごし方になっていた。

「そうね…何が聞きたいの?」
『うーん。あ、そうだ!あのね、ネロもレディもダンテと仲が良いのに仲良くないよね?なんで?』

仲が良いと思うのは仲が悪そうな雰囲気で何だかんだと付き合いはあるから。
でもやっぱり仲の悪そうだというより慣れ合う感じじゃない仲の良さだからこれが普通なのか…と気になっていた事を聞いてみると少し言いにくそうなレディ。

「…なんでって…私もネロもダンテの出会い頭の印象が悪かったからじゃないかしら?」
『そんなに悪い感じだったんだ。』
「まぁ…あの時は私の方も多少悪かったのかもしれないけど…ネロの場合はダンテが明らかに悪かったって聞いてるわ。」

それに大体性格が噛み合わないんじゃないかとレディの話はどんどん愚痴っぽくなっていく。

「何に関してもルーズで人をすぐにからかうでしょ?」
『そう…?』
「そうなの!第一印象は最悪、それからの印象も最悪。ネロもなんでこんなところに来たのか…永遠の謎ね。魔が差したんじゃないかしら。」
『あの…レディ?』
「大体なによ、必要な事は言わないし、いっつもぼけーっとして。
 トリッシュとグルになると性質が悪いし、それでいつまでたっても借金は返さないし。こんな腐れ縁なければとっくの昔に手を切ってたわ。」
『…そ、そっかぁ。』

その後も止まないレディの苦労話。
愚痴ではあるけれど何故か聞いてて笑えてくるからそのまま聞いておくことにしてみた。
浮かべる笑いは苦笑いに見えるようにすることを忘れずにレディにしては稀な感情を表にした喋り方を勝手に楽しんでいた。

そんな時、パシッと乾いた音が話に水を差す。

「…何の音?」
『わかんない…。』

必死に音の元を探ろうと耳を澄ませる中、窓の外に向かって注意を促す様に威嚇を繰り返す白猫の声だけが部屋にこだまし
それに気付いたレディが窓に目をやると白猫はすぐにクッションから飛び降り、ドアを器用に開けてネロの部屋へと駆けて行く。

「逢夏、そこでじっとしてなさい。」

開けられたままのドアを閉め直しながら放たれたレディの声は緊張で固くなっていて、よく分からない空気の中、物音ひとつ立てないようにじっとしていた。

そこにまたあの音は響く。
今度はその音と共に何か上から落ちてきたものが足に当たった気がして、ゆっくりと足元を探るとそこには白い欠片。
慌てて首元に手を伸ばすと丸く優しい輪郭に触れるはずの手には鋭い断面が触れ、手に持っていた欠片をその断面に合わせるとぴったりと綺麗に一致した。

「割れた…。!?。」
「ひぁっ!?」

それを見てレディが呟いたと同時大きな疾呼が響き、窓ガラスを震える。
思わず出してしまった声になのだろうか、もう一度声をあげるその咆哮の主。
見てはいけないと分かっているのにどうしてか見てしまった窓の外には大きく腕を振り上げ窓を破ろうとする悪魔がいた。
また声を出してしまいそうになるのを必死に耐えていると頭の中で響く"声を出すな"というネロから命令に応えて声は出なくなる。

声は出ないけれど、窓から見える赤い目と黒い大きな手にぎゅっと目をつぶってガラスの割れる衝撃と音を待っていると…
ガラスの絶叫ではなく悪魔の叫喚が訪れた。

それと共に聞こえたのは窓を開け放つ音と

「レディ!逢夏は!?」
「無事よ!遅いじゃない、ダンテ!」

二人の会話に顔をあげると悪魔の腕にはダンテの持っている大きな鈍銀の剣が刺さっていた。
痛みに歪んだ悪魔の表情…けれど目があった瞬間、その表情は不気味な笑みを浮かべる様に歪みなおされた気がして体が竦む。
これ以上見ていてはいけないと分かっているのに顔すら逸らせなくなって、震えが止まらなくなっていると赤い目はシーツで遮られた。
頭から被らされたそれの上からポンと優しくレディの手が乗せられて撫でられる。

「絶対にそこから動かないで。絶対に守るから。」

その声が終わると響くのは悪魔の声よりも怖い銃の声。

聞こえない…聞こえない…。
銃声なんて…聞こえない…。

言い聞かせて必死にパニックにだけはならないようにしていた…そんな所に
耳元で微かな笑声が聞こえたと思うと腕を強い力で引かれ、気付いた時には何か冷たいものが首に当てられた。
目だけ動かしてそれを見ると壁から生える様にして伸びる赤錆びた刃物がそこに確かにあった。
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