籠越しから見る空

□籠越しから見る空 16
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あの日から数日も経つと体調は大分良くなった。
それに落ち着いてからまた色々と教えてもらった所為なのか
鎖の音に前ほど恐怖を抱くことも無くなり、それでも怯える本能の声には"大丈夫だよ"と言えるまで心を落ち着けていられた。
何に対しての大丈夫なのかは分からない、けど…大丈夫だよって、でもそう心の中で言ってる時に限って

「本当に無理してないだろうな?」
「してないよ。ねぇ…どうしてそんなに何度も聞くの?」
「何となく、…そんな感じがしたから。」

ネロは心の声を聞いた様に必ず"無理をしていないか"と聞いてきて、必ずその時に手を握ってくれるようになった。
その度に心配させてしまったって胸が苦しくなるけど

「何にもないよ、大丈夫。」
「本当か?」
「絶対に本当。」
「…ならいい。」

そうやってネロにも大丈夫だよって伝えると安心してくれて優しく笑ってくれるから私も尚さら安心できていた。

…だからなのか今まで見えなかったものに向き合えるようになった。
平静でいられなきゃ聞こえないほどの小さな声と穏やかでいられなければ目を逸らせてしまうだろう光景がようやく聞こえて、見えた。
そしてそれの真意はきっと私の心を試してることだとも気付けていた。
私は試されてる…自分に試されてる。
そう思えてならなくて、私は私なりに答えは用意した。
これで絶対に後悔しないと言える答えを…。

そしてそれを示す時は唐突に、けれど必然にやってきた。

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自室で本を読んでいるとバタッと窓から音がした。
いきなりの音にあの満月の夜の出来事が頭を駆け廻って一瞬血の気が引いたけれど、ゆっくりとその方を見ると…
小さな生き物が必死に窓枠にしがみついていた。
音は窓にぶつかった時のものだったらしく透明なはずの窓には赤い跡、そしてその生き物を中心に今も広がっていた。

「あの子……。」

本当はいけない事だと直感が告げてくる。
けど、放っておくことは答えに反するとも告げられた。
少し迷いながらも手を伸ばしたのは窓のカギ。
余計な振動でその生き物が落ちてしまわないように窓をゆっくり開け、手ですくうようにその小さな体を捕まえた。
もちろん逃げようと生き物は精いっぱいの抵抗を示すものの、すっかり赤で濡れそぼってしまった生き物の力はあまりに弱く。
少しもしないうちに威嚇する様にキィキィとしかし弱々しい声が響かせるだけになる。

「お願いだから静かに。…大丈夫、怖くないよ。」

小さな体に広がる大きな傷に障らない様にタオルを用意し
その上で安静にさせようとするが、未だ不安に鳴き止まず余計な体力を消費していく一方のまま。

「私は貴方を傷つけない…絶対に助けてあげる。」

少しでも安心させたくてなるべく小さな声で呟き、他の柔らかいタオルで血を拭っていると随分大人しくなり始めた。
でもそれは安心したのではなく…周りに意識を廻らせる気力すら無くなり始めたようにしか見えず、頭をよぎるのはただ

このままでは死んでしまう。という事だけ。

「…。ちょっとまってて。」

引き出しから必要なものを見つけ取り出すとその生き物の許に足早に戻る。
手に取ったそれを見て、一瞬身が竦む思いだけれど…
一つ深呼吸の後、持っていたカッターの刃を人差し指の腹に当て横に滑らせたことによって溢れた血を今も弱る生き物に近づけた。

「これできっと元気になるよ。」

あまり体を動かさなくとも血が飲めるように口元に近づけると
少し戸惑った様な素振りを見せながらも赤い生き物は小さな舌で必死に舐めとり始めた。

血を取り込んでいく度に僅かにだけれど癒えていく傷を見なくても正体はすぐに分かってた。
血で染まったのではなくて、もともとの赤い毛皮とそして何より赤い目…この子は悪魔なんだって…最初から分かってた。

それでも少しずつ元気を取り戻しつつあるそんな悪魔を見て、胸を撫で下ろした…時。

「逢夏…お前、何をしてる?」
「!?…ダンテ…?」

初めて聞く…怖い声。
振り向いた先のダンテは凄く怖い顔をしていて、素早く悪魔に手を伸ばしてくる。
いつも優しいその手は、今だけはとても怖くて、絶対に渡しちゃダメだって。
思わずその子を両手に包むとダンテの横をすり抜ける様にして部屋から飛び出た。
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