ケが恋しくも、過ごすはハレの日々

□引越しと入学式
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リビングにある小窓から外を見る度に今まで遮られる事の無かった景色が遮られるようになったのは数カ月前のこと。
角地の広い敷地を利用して建てられた新家は周りの家と外見はあまり変わらないものの何やら雰囲気はそんな感じじゃなかった。

「ねー、お母さん。」
「なにー?」
「うちの隣に建った家、いつ誰が住み始めると思う?特にどんな人かって言うのは気になるよね。」
「そうねぇ。いつ…なのかは分からないけど。ただ分かるのはお金持ちって事くらいかしら。」
「…やっぱ、そっか。」

だよね。
ここは移動には自転車、バイク、車がどうしても必要になる様な少し辺鄙な場所。
だけどだからと言って周りから見離されたド田舎という訳ではなく、ベッドタウンとして発展してきた場所なので土地は安くはない。
さっきも思ったようにうちの隣の家は広い角地の敷地の上に尚且つ道路との接地面積も広い。
この団地はそこそこ人気があるのにここだけは売れなかった理由はそこからくるもの。
一般人にはちょっと値が張り過ぎるのだ。

「お高く止まった人達だったらどうしよう!!!」
「その時は無視。」
「えーーー!?無理無理!だって隣ってことはいろんな世話見なきゃいけないじゃん!」
「お母さんが無視するの。柚々子は世話好きなんだから世話をみてあげればいいじゃない。」
「私だけ!?なんでよ!?」
「お母さんは柚々子以上に人見知りなの。」

本気で任せようとする母を憎らしく思いながら憂鬱に外を見るけど…
いつ来るか分からない隣人の事を気にしていても仕方ないよ!
いつまでもそんなことで頭を悩ましているなんて性に合わないしさっさと気持ちを入れ替えるが吉。と考え直したのは楽しみな明後日のこと。

「入学式、かぁ!」
「またそれ?…まぁ確かに。よく柚々子の学力で受かったって感じだけど。」
「うぅ、ひどぃ。私の実力ですよ。実力!
 あっ、でさでさー。スーツは?スーツ!」
「…あ。」
「…え?」

今までTVに向かったままの母親と外を見ていた私がお互いに動きの悪い機械仕掛けの人形の様に向き合う為に首だけ回す。

「…まさか?」
「ごめんごめん。明日お店に取りに行って来てくれる?」

受け取りに行くの忘れてたわ。と悪びれもしない母。
それをなるべく冷たい眼差しで見つめ…けれどまぁこの人だからと諦めてため息を一つ。

「…はーい。全く何でこんなにうちの親は感動薄いかなぁ?
 ふつーね、もっとこう…親から喜んで、親から率先して準備してくれるもんじゃないの?」
「それは他の家の話。うちはうちなの。」

このめんどくさがり屋め!と言ったけど無駄。
だからあなたはしっかりした子に育ったのと嬉しそうに母は笑うだけ。
…でも、そんな母も何だかんだと大学進学を喜んでくれていると言う事は親子という長い付き合いで知っているので同じように笑っている時だった。

聞き慣れないエンジン音。
咄嗟に視線を外していた小窓にやると、想像通り。

「お母さん!お隣さんだ!」
「あら。ほんと!」

気になってやってきた母も食い入るように窓外、真新しい車庫に入る車を見ていた。

「外車ね。」
「そうなの?」
「それくらいエンブレム見たら分かるでしょ。」

指された先のエンブレムは確かに日本車のものじゃなくて何かTVでしか見た事のない様な感じ…。
そんな外車…ってことは!

「いやー!そんなセレブリティを振りまく人なんて無理ー!」
「それは日本人だったらの話。もし外人さんだったら普通じゃない?」
「外人!?いやいやもっと無理だからね!!意思疎通とか無理だよ、私日本語の英語だけだもん!」
「お母さんはもっと酷いわ、喋れないし。あ、家に入ってくみたいね。」

車のドアが閉じられる音にまた小窓から見ると…。
夜にも関わらず外灯に照らされる銀色の髪がよく目立つ人達が降りてきた。

「銀…?しかも背…高っ。」
「外人さんで当りみたい。それじゃあよろしく頼みます、うちで唯一英語が喋れる新大学生さん。」
「いやーーーー!!!」

どうか近所付き合いが面倒で挨拶とか来ない人達でありますよーにと祈りながら。
その夜は過ぎていきました。
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