籠越しから見る空

□籠越しから見る空 18 (前)
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「寒くないか?」
「…ほんの少し。でも、大丈夫。」
「…寒くなったらすぐに言えよ。」
「うん、ありがと。」

そんな会話の後、見上げた夜空は満天の星で埋め尽くされていて
その時々、一際の輝きを放った星がいくつかその夜空を光の線を描きながら奔った。

「うわぁ…すごい!綺麗に見えるね!」
「だろ?去年よりも今年のが綺麗に見えるな。」

今年は雲もなくて見えやすいという流星群。
そんな流星群と言えばだ…。

「そうだ!ネロは星に願い事しないの?」
「…そういうお前はどうなんだよ?」
「んー…しない、かな。」
「なら俺もしない。」
「そっか。」

"なら"ってことはしようとしてたっていうこと?ネロが、星に願い事を?…そう思うと意外で

「ふふ…変なの。」
「?。どうしたいきなり…。」
「なんでもない!…星、綺麗だねー…。」
「…。そう、だな。」

そんなときコンクリートの上に投げだす様に置いていた手を優しく握ってくれたのはネロの手。
さっきまで冷たかったのに、冷たさなんて少しも感じなくなったその手に、また不意に涙を流しそうになった。

星に願いたい事ならたくさんある。
どうか私を元に戻してって
どうか悲しい別れが訪れませんようにって
どうかこのままずっと皆と…ネロといられますようにって。

でも私の願いはそんな、ネロの前で言うべきではないもの。
そして、言っても叶わないと心のどこかで知ってること。

言いたくても、言ってはいけない事なんてこの世にはたくさんある。
私の願い事はその言ってはいけないことに入るものばかりなんだって分かっていたから、だから願い事なんてしない。

「星は…見ているだけでいいんだよ。」
「逢夏?」
「なに?」
「…いや、なんでもない。」

私は星が見せてくれる美しい光を見ているだけでいい。
星は秘めるべき願い事を持つ私を見ているだけでいい。


でも、もし本当にそう思っていたのなら。
今ここで握ってくれるこの優しい手を振り払ってしまえばよかったのに。
振り払ってしまえば…知らなくても済んだかもしれない。

結局私の決意なんてこんなもので、私のネロに対する優しさと想いなんて…こんなものだって。

そんな後悔と
そんな甘えと

淡い期待と
消しかけたと思った想いと

箒星は私が知らないうちにそんな軌跡を描いていたんだとは全然しらなかった。
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