ケが恋しくも、過ごすはハレの日々
□部活と昔話
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どこの大学の必修科目の中にも必ずと言っていいほど保健体育という講義は組み込まれてくる。
ただこの講義、一般的には"保健"という机上講義かそれとも"体育"の実技講義かどちらかを選択してどちらかの単位取得をすること。とされていることが多く
そしてもちろん、柚々子とネロが取ったのは。
「ネロ!」
「任せろっ!」
パァンという小気味のいい音を立ててうち返された黄色いボールはラインぎりぎりにワンバウンド。
これはいけるかも!と思った通り、相手のラケットがボールをとらえることは無く…
「さすがネロ!ナイスー!」
「まぁな。」
持っていたラケット同士をコツンと合わせて、試合の相手に挨拶した後は邪魔にならない様にすぐコート外へ。
そう!もちろん体育を取りました!だって、楽しくスポーツが出来て単位が取れる講義をみすみす見逃すなんてことしたくないもんね。
でも一口に体育って言ってもすっごく悩んだんだよね。っていうのが、体育って一つの講義もその中でもいろんな種目に分かれることになってて
『テニスってしたことない。』
『俺も。…じゃ、これにするか。』
『賛成ー!』
という理由で決まったわけですよ。
そのテニスと言えば、これを選んだ人数が少なかった所為かこうやって男女混合でペアを組んでダブルスの試合形式をとってやってるんだけど
ど素人の私とネロは経験者の子に一番最初の講義の時間に教えてもらって、それでその次週の講義から試合に混ぜてもらったの。
それで、初戦で教えてもらってその子のペアとぶつかって、こうやって初勝利を収めまして…
「ありえない!」
「でも勝っちゃったもんね!さてと、じゃあ今日のお昼、私とネロにおかず一品ずつおごりだー!」
「分かってるよ!でも〜、あーもう!ほんっとうに信じらんない!」
「つーか、ネロに柚々子。お前ら、絶対経験者だろ。」
「違うって言ってるだろ、俺もこいつも先週が初めて。」
「…ま、だよな。」
先週はラケットの持ち方から教えたくらいだし…とぼやく同じクラスの男子と
初心者に負けるなんてー!って悔しそうなこちらもまた同じクラスの女子に
私とネロからにやにやとした視線を送りつつコートの端に転がってるボールの片付けをして
一通り集め終わったところで、そのボールの入ったカゴを倉庫に収めようとした時だった。
ボールを落とさない様にカゴに視線をやりがちになりながら歩いていると額にドンとぶつかった衝撃が。
一瞬視界を掠めた色は黒に青い線とネロがきていたジャージの柄…ってことは
「ちょっと!いきなり止まんないで…」
「静かにしろ。」
「むぐっ。」
いきなり声を小さくしたネロに口を手で覆われて、驚いて非難混じりの視線で見返すと…ゆっくりと手を外したネロはじっと真剣に一ヵ所を見つめてた。
あれって…
「弓道?」
「みたいだな。アーチェリーがあるのは知ってたけど…弓道もあったのか。」
「アーチェリーと弓道がどう違うのかしらないけど。…ね、どしたの?」
「なにが?」
「いや、だって…どうして立ち止まったのかなって。」
「………なんとなく。」
ふいっと顔を背けたネロはカゴを持ち直してそのまま静かにそこを歩いて離れてく…
と思いきや一度だけ振り返って静かにしろよって注意してきた。
何度もいわれなくても分かってるってば、集中が大切なスポーツだから、でしょ?
「ネロってやっぱり良く分かんない。」
そう独りごちて、私も倉庫に向かう事にした、そんな時に一度聞こえたのは静かになった所為なのかよく響く矢が的を射る独特な音。