ケが恋しくも、過ごすはハレの日々

□雨上がりとお隣さん
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雨の合間の晴れ模様。
窓から庭を覗くと淑やかに咲く紫陽花を彩るような水滴がすごく綺麗だねーとか
ちょっと風流な大和撫子を演じてみたりしながら過ごしていたのは清々しくも、ほんわかとした朝。
そんな中…
どんがらがっしゃんっと言っても差し支えないほどの大音量とこんな会話がお隣から響いてきた。

『おわっ、ケル!重いだろ!なんだ、散歩かぁ?ならネロにたの…』
『休日くらい兄貴が連れてけよ!一番ケルが懐いてんのは兄貴なんだからさ。』
『俺はまだ眠いんだ!昨日も遅くに帰ってきたって知ってるだろ?』
『ケルにはんな事関係ねーの!』
『お前ら!さっきから煩いぞ!』
『『バージルのがうるせぇよ!!』』

お隣さんにとって雨上がりの朝は"爽やかな"ではなくて…"賑やか"なんだね。
賑やか、かぁ…大いに結構だけれどね。

「あそこの子達は本当に元気ね〜。」
「元気過ぎてこっちの雰囲気ぶち壊しだよ。」

まったく…あの3兄弟は揃って私のせっかくのお休みを台無しにするのが趣味なんだろかってそろそろ本気にしてしまいそう。
なんて愚痴りつつ、そろそろ外出できるようにと着替える私は3人を悪く思う以前に好いてるんだよね。

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着替えも、そしてご飯も食べて終わった頃。
ピンポーンと呼び鈴が鳴らされたから出てみると

「あれ、ダンテ?…おはよう。」
「おはよう。ほら、さっさと行くぞ。」
「う、うん。おかーさん、散歩行ってくるね!」

大あくびをして眠そうなダンテは持っていたケルのリードを私に渡すと先をスタスタ。
んー?なんか今日は違うぞ。
最近の朝晩は毎日こうやってケルの散歩についてくことにしてるけど本当は…そう、ネロが迎えに来てくれるはずなのに…

「ネロは?」
「眠いから寝るだとさ。」
「ふーん。」

今日はなんかそんな気分じゃないのかな?
でもね、動物を飼うのに気分じゃないとかそんなことダメだよ!!!
とか少し腹を立てていると、それは違うって事にケルが気付かせてくれた。
というのも、あの大人しいケルベロスが…

「ひゃっ!!」
「おっと、大丈夫か?」
「う、うん…。」
「そうか、ならいいんだ。……おい、ケル…いい子にしてろ。」
「ワフ!」

いきなりケルがリードを引っ張ってきて、前を歩いていたダンテに突撃。
いつもはそんなことをされないので短めにリードを持っていた私もダンテに突撃…と結構勢いよくぶつかったはずなんだけど
ダンテは特に気にした様子もないまま受け止めてくれたので怪我はなし!
そんなわけでお礼を言おうと見上げようとすると…"そこを退けろ!"と言わんばかりに横から私を押しのけようとするケル。
あっ、なるほど!
何となくケルの声が聞こえた様な気がしてダンテに差しだしたのは任されたばかりのケルを繋ぐリード。

「ケルはダンテがいいって。」
「はぁ……。俺は柚々子がいい。」
「?。ケルじゃなくてダンテの散歩するの?」
「……そういうのがお好みか?」
「うーうん!全然!」
「そりゃよかった。」

変な会話の所為なのか少し眠気が覚めたらしいダンテにリードを持たせるといつものケルベロスに元通り。
大人しく横にぴったりとくっついていい子にしていて、
時々足にすりついてはクゥーンってか細く鳴いたりとか普段は見られない姿が…可愛いなぁ!もう!

「ケルはダンテが一番好きなんだね。」
「あんまり世話はしないんだけどな。」

わしゃわしゃとケルの頭を撫でまわしながら呟くダンテにケルについて聞いてみると、ケルは数年前にダンテが家に連れて帰ったんだって。

「雨ざらしのなか捨てられててな、他の飼い主を見つけるつもりで保護したら…」
「したら?」
「ネロが思いのほか気に入っちまって、手放すに手放せなかった。」
「なるほど。」

その時はネロが小さかったから超大型犬のケルの世話は危ないって言ったバージルが、そして今はネロが世話をしてるんだけど…。
それでもケルとしては拾ってくれたダンテに恩を感じてるってことなんだろうね。
ノシノシと寄り添って歩くケルの横顔はすごく嬉しそうで笑っている様にしか見えないもん。
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