水月は紅の記憶に漂う

□受容の話
1ページ/7ページ

ベッドに横になってからずっと頭が痛かった。
だって…ずっと

『待てばいい。』

そんなダンテの言葉が頭の中で反響を続けて止まらないから…
ううん、止まらないどころかどんどん声は大きくなっていって、そこで…一つのあの疑問にぶち当たったからだ。

「いつまで、待てばいい…の?」

シーツを深くかぶると訪れた真っ暗闇の中、一度はふっ切った気がした『いつまで』の疑問。
何処までも続く闇は『いつまでも』待っていなければならないと、待ち続けるその時間に終わりがないと言っているようで怖かった。

「お願い…きて。…きっと…受け入れられるから…。」

その時が来たなら、受け入れると決めたの。
その覚悟は決めた…決めたけれど、もうそれが私の精一杯。

今のここから、受け止めるまでの真実の場所に足を踏み出す覚悟は決められなかった。
だからお願い、後押しをして。もう…自分の力ではここまでが限界だから。

そんな祈りを届ける為に暗闇のなか胸に大きく切った十字。

今までだってこうやってたくさん神様に祈った事がある。
…けれど今までもそして今のこともきっと試練だから…楽になりたいという私の願いは聞き届けて下さらないと思っていた。
でも祈るのは悪いことではないと言って下さった神父様の声を思い出してひたすら祈った。

そうやって必死に夜通し祈った所為なのかね、初めて…私の祈りは叶えられたの。

ただ、叶えてくれた神様はその時相当ご機嫌斜めだったんじゃないかって思う。
なんでそう思ったか、それは…その祈りが叶えられたのは翌日のことだから。

---------------------------

祈りばかりの夜が寝れる筈も無く、浅い眠りを数度繰り返して夜明けを待っているところに

trrr...trrr...

下階から良く響く高い音、聞き間違えでなければ電話の音が。
まだ日も明けないこんな時間に電話なんて非常識じゃないかとか、諦めてすぐに切れるだろうとか思いながら
寝苦しさでぐしゃぐしゃにしていたシーツを手繰り被り直して聞こえないふりをしていたが誰も出る気配がない電話のコールは悲しく鳴り続ける。

「…どうして?」

どうしてここまでしつこくコールをし続けるの?
そう理由を考えた時に思い浮かんだのは、電話と、孤児院での出来事、奇妙な悪魔に対峙した二人の姿と
『これのプロじゃないのか?』という問いに返された『そのつもり』という言葉。

詳しくは聞かなかったけれどここは悪魔退治を専門としているのだろうという結論が出すのはすごく簡単だった。
という事は、だ。電話の相手は困ってるのではないだろうか。

考えがそこに至ると思い出されるのはいつも人を愛し、困っていたら手を差し伸べなさいと言っていた神父様の顔。
そうなるといてもたってもいられなくなって大急ぎで下まで降りた。
階段を駆け降りた勢いのままデスクの傍まで寄って、鳴りやまない電話の受話器を持ち上げようとした…のだけれど

「Devil May Cry」

いきなり無くなった受話器の先を追うと眠たそうな顔をしたリベリオン。
何故かついている寝癖を直しながら話を済ますとぽいっと受話器を投げて戻し、
電話の横にあった二丁の銃とコート掛けからコートをとり、二階へ行こうとする前に一度だけ私にむかって手を伸ばした。

「よく出ようとしたな、偉かった。」
「え…?」

指の先で頬をそっと撫でてくれたリベリオンは階段を上がって姿を消し
その後すぐに事務所のこの下の階まで聞こえたのは荒々しくドアを開閉する音と、大声で怒鳴る声と…一発だけの銃声。
それからまた少し後、大あくびをしながらのダンテ、面倒そうに眉を寄せるトリッシュが降りてきた。

「お、おはよう…。」
「おはよーさん。」
「おはよう、クヴァレ。」

挨拶しながらゴツゴツと大きなブーツの音を響かせつつ目の前まで歩いてくるダンテ。
まだ眠たいのか据わっている目に少し怖くなって身構えていると…。

「電話、取ろうとしてくれたんだって?偉かったな。」
「あ、え…なんで…。」

なんで褒めてくれるの?
そう聞こうとした時には力の加減もなくただぐしゃぐしゃとダンテに頭を撫でられ茫然としてしまっていて、
気付いた時には既に剣に戻ったリベリオンとさっきの銃を持ってトリッシュと外に出ようとしていた。

「ダンテ!ちょっとま…」
「その調子で留守番頼むぞ。」
「え?…えぇ!?」
「留守番がてらにここの掃除を頼むわ。帰りは昼過ぎ。昼食の準備、よろしくね。」
「掃除!?それに昼食って!?」

反論しようにも上げた声は二人に届くことなく空しく閉まったドアに跳ね返された。
そんなあまりの空しさに私が出来る事と言えば再び茫然とすることとため息をつくこと。
だって…

「ダンテもトリッシュも…何を考えてるのか全然分かんない…。
 …でも…あの二人のどっちかに、所有者になってもらわなきゃいけないんだよね…。」

いずれ来るはずの時のことを思って、リベリオンのあの忠告を思い起こせば、…不覚にも涙が出てしまいそうになった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ