水月は紅の記憶に漂う
□仕事の話
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ぽかぽか陽だまりが事務所の窓の近くにできる真昼の時間。
何故かその陽だまりには悪魔と魔具であるのにパンドラとケルベロスが仲良く眠りこんでいたりした。
その様子にいつからここは悪魔にとっての安息の場所となったのだろうかとため息をつきながら
ガチャン
普段通り少々荒目に受話器を置き、ダンテはいくつか考え事をしていた。
考え事というのは
今日は朝から一度も数日前に引き取ってきた魔具の姿を見なかっただとか
そういえばここ3日前くらいからそういう日が続いているじゃなかったかだとか
ピザの注文をすべくのさっきの受話器越しの声がその魔具の声に似ていたような気がするだとか
ダンテにとっては取りとめもないはずのそんなこと。
しかし、ダンテはすっかり綺麗にされてしまった事務所をぐるりと見渡し
顎に手を当て思案した後に椅子から腰を上げると歩み寄って軽くケルベロスを蹴りつけた。
のそりと起き出すケルベロスはじとりとダンテを睨みつける。
「……マスター、いきなり蹴りつけるとはどういう…」
「俺の許可なしにここで寛いでるお前の文句を聞く義理はない。
それより、クヴァレは何処行った?」
「クヴァレか?クヴァレなら………」
眠気を引きずったままの眼差しでケルベロスはゆっくりと右前脚で事務所の外を指した。
「出掛けてくると大荷物を抱えて早朝に出て行った。」
「なんで出掛けたかは知ってるのか?」
「知ら…「クヴァレ?クヴァレ帰ってきたの!?」−−−っ!?パンドラ!貴様、我らのからだでよだれを拭くなと何度言えば!」
いきなり怒鳴ったかと思えば…。
質問に答えることを止めてぎゃんぎゃんと三つの頭が寝起き+勘違いをするパンドラを叱りつけ始めた。
それにダンテは諦め、頭をふりながら元の位置である椅子に座りなおして雑誌を広げる。
まぁどうせ何かあったら帰ってくるだろう、そう思いながら。
と、そこに。
ゆっくり開けられたドアとその隙間から見えたピザ宅配の服。
なのだが、いつもと違うその人物にダンテは目を見張った。
「おいおい…、お嬢ちゃんみたいなのにこんなところまで配達させてるのか?」
箱を持っているのは身長は少し高めながらもどこからどう見ても女の子。
お世辞にも治安が良いとは言えないこの場所に配達するのだから、毎回必ずくるのは男だったはず、…なのだが。
そんなダンテの考えをよそにその人物は軽そうなスニーカーで物静かに事務所に上がり込み、デスクに注文したピザの箱を置く。
そしてようやく一言付け加えて請求書を差し出した。
「"ツケ"は聞きませんからね、マスター。」
「…ツケ?…まさか、お前!?」
もしやとガタンと椅子を倒しながら立ち上がったダンテは目の前に立つ人物が目深く被っていた帽子を取り払う。
まず見えた青みがかった黒く短い髪、伏せられたまつ毛越しに見えるグレーの目。
予想通り果てしなく機嫌の悪そうなクヴァレがいた。