ケが恋しくも、過ごすはハレの日々

□学祭とコンテスト
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「あ゛…。」
「い?」
「うー?」
「…頼みますから、部長まで柚々子の悪ふざけにのらないで下さい。」

弓道場に響いた敬語は一番最初の濁点付きの言葉を発したネロのもの。
惜しい、あと"え"と"お"だけだったのに。でも止められちゃったからもうお終いだね、残念。
とか部長と話ながらとりあえず不機嫌なネロの手に握られてる物に視線を向けてみた。

「それ、どうかしたの?」
「どうもなにも壊れたんだ、いくら操作しようにも反応がない。」

貸して欲しくて伸ばした私の手に大きな手から渡されたのは携帯音楽プレーヤー。
隣にいる部長と一緒にあちこちとボタンを押したりするんだけど…
確かに画面は真っ黒のまま、音楽が流れることもなく全く反応無し。
そんなプレーヤーの様子にネロは大きな大きなため息をついて、指折りなにかを数え始めちゃう。

「学祭の後は打ち上げがあるだろ?
 …そろそろケルのリード買い替えないといけないし、今月は母さんの誕生日も…。」
「お金足りる?」
「プレーヤーを買い変えなきゃ、今月のバイト代で十分足りる。」
「じゃあ、今からでもバイトの日を増やしてもらうとかは?」
「俺を留年させる気か。」

んー、やっぱり駄目かぁ。
今だって週四日はバイトが入ってるんだもん、これ以上はさすがにね。

…あ、ネロはね、大学近くの喫茶店でバイトしてるんだ。
ソムリエエプロンっていうのかな?あれがすごく似合ってて
しかも『おまけして?』って頼むと嫌そうな顔しながらもちゃんとしてくれたりとかいつも以上に優しいんだよね。
で、まぁそれは置いといて…。

「じゃあ当分は音楽プレーヤー無しの生活かぁ。
 頑張れっ、ネロ!」
「…頑張れってなんだよ。別に、…我慢できない事はねぇし…。」

ふんっ。と顔を明後日の方に向けてそう言うネロだけど…
とかなんとか言っちゃって、本当は毎日片時も音楽プレーヤーを手放さないんだから相当厳しいはず。

しょうがないなぁ。良ければ私のを貸してあげようか?
とか、言おうとした…そんな時。
ポンっと手を打ったのはすんごく怪しい笑みを浮かべた部長だった。

「ねぇ、ネロ君。新品の音楽プレーヤーがタダ同然で手に入る方法、私、知ってるんだけど?」

ん?新品の…音楽プレーヤーがタダで?
って、それってまさか!

「部長!あの、それはネr「本当ですか!?」
「うん!絶対手に入るってわけでもないんだけどね。
 でも、私はネロ君が頑張ってくれたらほぼ確実に音楽プレーヤーは手に入ると思うの。
 やってみる?」
「ネ、ネロ…止めた方g「はい、やらせてください!」

あぁ…止めた方がいいのに…。
部長の提案に喜んでる犬の尻尾みたいに嬉しそうに頭を縦に振っちゃって了解しちゃうネロ。

…仕方ない。
ちゃんとひとの話を聞かないネロが悪いんだよ。
私、今ちゃんと止めようとしたんだからね?


だから、こうなったら実学で学んでらっしゃい。

『タダより高いモノはない。』

って言葉。
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