憧憬と見上げる空

□シャティの一日
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※本話はすっかりネロ&ヒロイン宅のペットと化している白猫シャティの目線もどきで一日を書いています。


AM6:17 猫、起床

胴や足をしっかりと伸ばし、パタパタと耳を小刻みに震わした後。
駆け足で駆けこんだ場所は洗面所。
中途半端に閉められたドアの隙間に前足を挟みこみゆっくりと開けるとそこには小さく欠伸をしている逢夏がいた。

「逢夏、良い朝だな。」
「…あ、シャティ。
 おはよう。」

人差し指で目を軽くこすった逢夏は眠そうな声を上げて挨拶。
シャティはその挨拶に「うむ。」と軽く返した。
それからきょろきょろと辺りを見回し…

「ネロはどうした?」
「まだ寝てるよ。
 昨日の帰りが遅かったから8時ごろまで寝てるんじゃないかな。」
「そうか。……それはどうした?」

シャティの蒼い視線の先は白い洗面台の棚の上、小さな赤い破片が入った小ビン。
軽く洗面台の縁まで飛び上がり着地し、前足で触れたそれは予想通りの品だった。

「昨夜の依頼には欠片持ちの悪魔いたのか。」
「そうみたい。
 多分ネロが寝る前にベッドヘッドに置いたんだと思うよ。」

ちょんちょんと前足でビンにちょっかいを出していると顔を洗い終えた逢夏が目の前から小ビンを取り去る。
少し非難がましい視線を向ければ、にっこりとした笑みを逢夏は浮かべ、キッチンへと駆け足。
こちらも駆け足で着いていくと丁度そこでは水の入ったコップとビンから取り出した破片を手に持つ逢夏が。

「ネロが怒るぞ?」
「いいの。
 これから心配させちゃうんだから、怒られなきゃおかしいよ。」
「………怒られるのは我だがな。」

それでもごくりと破片を飲みこんだ逢夏を横目で見守る。
ここで目を離してしまった方が止めなかった事よりネロに怒鳴られるだろうと頭の奥で声が響いての行動であった。
その間にすこしふらふらと覚束ない足取りで椅子に座った逢夏。
顔色を伺おうと目の前のテーブルに飛び乗り、座るとあれを飲んだにしては健康そうな表情が見てとれた。

「今回の悪魔は欠片を拾って間も無かった様だな。」
「そう、…だね。
 ちょっと辛いけど…。」
「ネロを呼ぶか?」
「ううん、これくらいなら大丈夫。」

何が戻ったかな?
無理やりにも見えるが、けれど幸せそうに笑みを見つつ、首を傾げて返すと
とりあえず朝食の準備。と言って、また逢夏はキッチンへと消えていく。

そんな姿を見送った後、カタンと前足で再びちょっかいを出した小ビン。
さっきまでこの中にあった赤い破片はおよそ一年前にネロに倒された悪魔が持っていた力の破片で
もう少し詳しくすると欠片は逢夏の記憶や感覚そのものだったりする。

「大部分は取り戻せているが…まだまだだろうな。」

欠片は他の悪魔や動物に拾われ、世界に散り散りになってしまった。
それもほとんどは旅行の最中で、そして今現在、独立したこの事務所に寄せられる仕事で収集できてはいるのだが…。

うーむと唸る白猫、とするとそこに。

「ねぇ、シャティ!!」
「む。どうした。」
「今回戻ったモノ、分かったよ!!」
「ほう、なんだ?」

嬉しそうな声を上げてキッチンから顔を出す逢夏の言葉に耳を傾ける。
すると勿体ぶった様な言い方で、意図しないようで意図するような返事が返ってくる。

「今日はシャティのご飯も豪勢にしてあげるね!」

それだけで何を取り戻したのか
どれだけ逢夏が喜び、ネロが幸せになるか
猫には分かった気がした。
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