憧憬と見上げる空

□崩れかけの信頼
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今夜もまた薬でも飲むみたいに紅い欠片を口に含んだ。
さっきまでコップを満たしていた水と一緒に喉を、そして胃へと流れ落ちていく欠片の感触を身の内で感じて
思わず一度身震いすると、隣のネロの眉間に皺が寄るところが丁度見れた。
あまりにも険しいその表情、けれど私の口からは図らずも微かな吐息と一緒に笑いの声が漏れた。

「またそんな難しい顔して…。
 その心配性なところ、どうにかしなきゃね?」
「どうにもしなくていい。
 少なくとも今はこの位心配性になってるくらいがいいんだ。
 …それより、体調は?」

そう聞いておいて、ネロは私の額に触れるとすぐさま横になるように言った。

それからすぐして、ぼやけ始める視界。
熱が上がってると気付いた途端、体の震えが大きくなった。

痛くはない。
でもきっと私が痛みを理解してあげられないだけで、体の何処かは悲鳴を上げていて
苦しくて、勝手に涙が零れてきて…苦しみから少しでも逃れたくて縋るようにネロの手を握る。

「……ネ、ロ…。」
「どうした?」
「手…握って、て…。
 離、さ…ない…で。」
「…分かった。」

答えを聞いて…安心して目を閉じる前。
ふと、手を握り直そうとして霞む視界でネロの手を見ると血が滲んでいた。
元を辿り見た、私の爪の先は赤に染まっていて…。

けれどそれにネロは気付くと微笑んで、ネロの方から私の手を握り直す。

「おやすみ、逢夏。」

閉じかけていた瞼の上にキスを落として、ネロは私が瞼を下ろすまで優しく笑いかけてくれていた。



それでまた…
変な夢の中に来た。


墓地、廃墟、荒れ地、路地裏。
とにかくいつも気付いた時には頼りの明かりは月光だけの暗い場所。
それが夢の舞台。

夢の役者はある一定の場所に佇むことしかできない私と
そんな私に決して気付くことのないネロと
不気味な声を上げるたくさんの悪魔達。

そんな
とても、とても気味の悪い夢。

夢の内容はいつも同じ。
私が何度声を張り上げても、何度手を伸ばしても、ネロが気付いてくれることはないまま
ただ悪魔に銃口を向け、大剣を振り下ろし、始終冷たい目をして辺りを見る。

そして、最後には
私がいる場所を冷めた目で見つめ、ゆっくりと銃口か鋭い切っ先を向けてくる。

夢だと分かっていても
今まで向けられた事なんてなかった冷酷な眼差しを前にすると、その度に辛く、心が冷え切っていって…
堪え切れなくなった私は

『ねぇ…やめて…。
 お願い、…そんな目で見ないで。
 謝るから…、謝るからっ…、だから。』

ただ蹲って、それしか言えなくなる。
でも…、ネロは聞いてくれない。

『ごめんなさい、…ごめんなさいっ。』

今夜も夢の中、ネロに向かって懇願と謝罪の言葉が口をついて出た。
けれど、ネロの蒼い目は私を透かして何かを見つめたまま。

そして今夜は静かで寂しい廃墟に一つだけ銃声が響いた。
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