ケが恋しくも、過ごすはハレの日々

□父と帰国
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ワフワフワーフ!と隣からケルの遠吠え(?)が聞こえる真っ暗なまだまだ秋真っ盛りの夜長。
暑くも寒くもないもんだから、ひたすらごろごろ〜ごろごろ〜とリビングでグータラ。
そんな時に、台所からお声がかかるのはいつものこと。

「今日はメール、届いてるんじゃない?
 この時期だったら、街の夜景を撮ってのせてくれてるかもね。」
「あー、そうかも!
 ちょっと見てみるね。」

ちょっぴり重たい腰を上げて、リビング隅に鎮座するPCの電源をオン。
早速、デスクトップいっぱいに表示されているお隣さん達と撮った写真をバックにメールボックスを開いて確認してみると
"ポンッ!"ってかわいいポップ音と同時に『新着メール1件』のメッセージが!
おぉ、さすがだ!

"私とあの人はいつだって繋がってるのよ〜。"

なんて毎日のように聞かされてるおのろけは伊達じゃないんだなぁとか思いつつ、ポチりとクリック。
本文を読んでみれば案の定、お母さんの言う通りの差出人からのメールだった。

『お母さん、柚々子。
 元気にしてるかな?
 お父さんは元気にしてるよ。
 今日はね、2人に重大な知らせがあってメールをしたんだ。』

心の中で朗読をしてみたけれど…
じゅうだい?
今回のメールは街の夜景とかそんなんじゃなくて、もっともっと大切な内容なのかな?
とか、受け止める覚悟もしないままのらりくらりの精神で続きを読んじゃう私。

これがまさに、後に大げさすぎるくらい後悔することになる10秒前なのである。

『お父さん、一時帰国することにしました。
 一週間後に日本に帰るよ。
 
 思えば柚々子とは初めて会……』


「いちじ…きこく?」

キコクって…あの"きこく"ですか?
国に帰ると書くあの帰国ですか?

「えー!!!?
 おか、、おかーーさん!大変!!!」
「何、いきなり。
 そんな大声出して、近所迷惑でしょ?」
「そうだけど!それどころじゃないの!
 おとーさんが、おとーーさんがっ!!!」
「パパ?
 パパに何かあったの!?」
「何も無いけど、これからあるの!
 おとーさんが帰ってくるって!!!!」
「…帰ってくる?
 パパが…帰って…?
 日本に?」
「そうだよ!一週間後に帰国するって!」
「帰国?…パパが?
 きこ、…く?」

あれ?お母さんの様子がおかしい。
混乱度MAXの頭の片隅でようやく気付いた途端、キッチンからバタン!!と大きな音が!
まさかと思って見に行くと思った通り、目の前には倒れたお母さん。

「おかーさん!?
 しっかり!しっかりしてーー!」

あまりにいきなりでショックというか嬉しさで気絶しちゃったんだ!
どうしよう、どうしよう!!?まずは救急車!?
私も気が動転しちゃって、とりあえず手にとった携帯でとある場所にコール。



…したはいいのです、でも落ち着いた今思えばさ

『どうして電話しちゃったの?』

って思っちゃうような場所に電話をしちゃってました。
きっと、私も私が思ってるよりも混乱してたってことなんだろうね。

「すみません…。
 こんな時間に大騒ぎしてしまって…。」
「そんなに気にしないで。
 だって18年ぶりの帰国なんでしょう?
 私も主人と18年ぶりに会えるなんてことになってたらきっと小森さんと同じことになってたはずだから。」
「そういうものですかね?」
「えぇ、そういうものよ。」

お電話しちゃったお隣さんからは
いつもニコニコ、私の心に癒しを振りまくエヴァさんと
心配をしてるような、そうでないような小難しい顔をしたネロがやってきてくれました!
もう、本当に助かっちゃう!涙が出そうなくらい!
だってこんな夜中なんだよ!?


とりあえず、どうしてこうなったのか訳を聞いてくれたエヴァさんはやっぱりニコニコ。
そんでもってネロはネロらしく、無表情っぽそうだけどよかったなって優しめなトーンで私に声をかけてくれてさ。

自分の事のように喜んでくれるんだから、なんだか不思議な感じ。

「そういえば、柚々子は初めて父親に会うことになるんだよな。」
「うん、そうなの!
 …どんな人かなぁ。」

だからこの時はね、なーんにも考えてなかったんだ。
本当に、なーんにも。
…初めて、なのにね。
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