ようこそ、悪魔の悪魔による悪魔の為の悪魔的なボードゲームの世界へ

□ダイススロー 3回目
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"終わりなき死"という壮絶な体験をした4人は1人を除き、正気に戻ったとはいえ、既に心中で戦意喪失の状態だった。

そんな心身状態を考慮して、必然的に小休憩と称し、少し時間を置くことになる。
が、それが裏目にでたことを知るのは15分も経過した頃のこと。

恐怖は距離の問題、不安は時間の問題とは言ったもので
『あのようなマスが他にあるのだろうか』という不安が時間を経るごとに増幅し
更に『だとしてもダイスを振らなければ、ゲームは終わらない』という事実によって、突き付けられ続けるゲームとの縮まらない距離が恐怖を増幅させていった。


その証拠に、休憩を始めて20分を経過しようとしている今

強がって見せるダンテは一切その青い目にボードゲームを映そうとせず
枯れはしないかと心配になるほどディーヴァは声をあげて泣き続け
一言も発さず、ただ静かにネロは怯え続けていた。

そんな中、1人、ディーヴァを胸に抱き寄せていた逢夏は悩んでいた。

「ディーヴァちゃん…、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、…ないですっ!
 だって…、だってあんなに苦しくて辛くて痛くて、怖くてっ!!
 もう、いや…。あたし、もうできないっ…。」

再びダイスを振るか、否か。

ゲームはまだ始まったばかり。
ゴールへの道のりはまだ果てしなく長く。
しかし、ディーヴァとダンテにとっての本当の意味でのゴールはそれらに加えて"確率"との戦い。
ボードに記されたゴールなどよりも険しく、いばらの道など易い道、それこそ先に経験した"終わりなき死"と同等の地獄のような過酷な道。

で…あるとするならば。

そっとディーヴァから離れ、逢夏は知らぬ間にボードの上へと戻っていたダイスを手に取る。

途端、リビングの空気は凍り付き
ピンと張った糸の様な緊張感に満たされた。

「まさか、こんな状況でそれを振るなんていわねぇだろうな?」

はっきりとした怯えを滲ませるダンテの声。

「そんな…まさか、ですよね?
 嘘って、言ってくださいっ!
 あたし、もう…やりたくない、のにっ。」

嘘だと言う言葉を信じ縋る様なディーヴァの声。

「逢夏…。」

振るなと言いたげに、けれど命令にし切れなかったネロの声。

三つの声を受けながら、逢夏はゆっくりと口を開いた。

「ごめんなさい。
 でも…ふらなきゃ。
 振らない…と、ゲームは終わらない。
 …今振らないと…帰れなくなるから。」
「ーーーーッ、終わらないってなぁ…。
 お前はそれでいいだろうさ!
 次にあんなのがあっても、怖くもねぇし、痛くもねぇんだからな!」

少し前に聞いた言葉。
あの時は2人が止めてくれた言葉をダンテはまた怒りと一緒に吐き出した。

今度は制止の声はない。

するとダンテはゴツゴツと低いブーツの音を鳴らしながら逢夏に近寄ると襟首を掴みあげる。

「ダンテっ!」
「っるせぇよ!黙ってろ!」

ふわっ…と浮き上がった逢夏を見て、ようやくネロが制止に入ろうとしたが怒りに震えるダンテはそうはさせなかった。

「ダイスを振ったお前だけが苦しむんだってんなら止めんねぇよ!
 だけどな、ディーヴァが巻き込まれてるんだ!!
 ディーヴァを泣かせることだけは絶対に許さねぇ…。絶対にっ!」

その瞬間、強く握られた拳が逢夏の眼前に迫った。
…けれど、それは寸でのところで止められる。
ネロの手でなく、他ならないディーヴァの手で。

「やめて。
 ダンテが女の人に手をあげるなんて…そんなの見たくないよ。」
「ディーヴァ…っ。」

ゆっくり下ろされた逢夏。
地に足が着いたのを確かめ、そっとダンテを見上げる。

「…本当に、ごめんなさい。
 こんなとき…どんな言葉で言えばいいのか分からないけれど…

 責任は私が取ります。
 命をかけて、ディーヴァちゃんを守ります。
 命をかけて、ダンテとディーヴァちゃんを元の場所に帰します。
 …だから、許して下さい。」

逢夏は深く深く頭を垂れてなかなか頭をあげようとはしなかった。
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