白銀の想

□白銀の想 1
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青々と晴れ渡る空の最中に降る雨。

そんな天が泣く、この地方では不吉とされる日に私は生まれたのだと聞かされた。

それを聞いて、その日に生まれなければ私は幸せだったのかもしれない、誰かに愛されていたかもしれないと思ったことがある。
けれどそれと同時に雨も晴れも知らない私にそんなことを言われても…とも思った。

生まれてからずっと暗闇だけが支配する部屋の中で生きてきた私にとって、明るいという外の世界のことなど分かるはずもないのに。



その私の世界の全てだった部屋は父が使う書斎の隣だった。
角部屋であるらしく、父の言いつけなのか父以外の家の者がこの部屋に近寄ることは決してなかった。
まるで、ここに部屋なんか…私の世界すら存在しないかのように。

ただそんな角部屋でも、
よく下階から"幸せそう"な声が聞こえた。

"優しい"と形容されるのだろうか、そんな女性の声。
所謂"無邪気"と呼ばれる幼い男の子の声が二つ。
そして私には向けられない"家族への愛しさ"を滲ませる低い父の声。

私も一般的に見れば"家族"という場所にいられたはずなのに父から私に与えられるものは下階で聞こえる声の主たちとは全く違うものだった。

"幸せ"も"愛"もなく、私に与えられたものは"レイン"という名前とこのどこまでも暗く寒い部屋だけ
 

独りにしかなれないここですることも無く、ただ見つめていた闇に埋もれる扉。
そっと撫でた世界を隔てる重たい扉は冷たくて、もし下階にいる父が愛する幼い子が触れたらどうなるのかと想像すれば
きっとすぐさま狂ってしまうだろうと私でも容易にその様が思い浮かんだ。

だったら、その子達よりも幼い私は既に狂っているのだろうかと自分に問うが
違う、狂っていないとすぐさまどこからか答えが返ってくる。

その返答は理由も教えてくれた。
こうしていられるのは私の心が生まれる前から体に流れ続ける父の血に深く深く浸食されていた所為なのだと

そして私の心を蝕む父の血はこうも言う。

私の心は空っぽで
ただただ私は空虚なだけなんだと。

空虚であるから
狂う事も出来ずにいるのだと。

このまま空虚で
この世界を全てと認めていなくてはいけないのだと。


だけど一度だけ空虚さがなくなったことがあった。
初めて外の世界に興味を持ち、初めて空虚以外を得た日。

期待と失望を体験したその日は折しも生まれた日と同様…天泣の日だったらしい。
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